前のページ インデックス 次のページ
Copyright Maeda Yutaka

1.2 相対性原理

 相対性原理は相対性理論の教科書の中に『全ての物理法則は、いかなる慣性系を基準にとっても、全く同じ形式で表現される』と書かれています。具体的にどのような事なのか。早速、思考実験を行ってみましょう。



 やあ、私が実験担当のDr.メイだ。  よろしく! 

 えーと・・・、相対性原理に関する実験だったかな?
 よし、それでは早速実験に取り掛かろう。 まずは、時間を計測するために、測定装置である時計を集めよう。

最初は最も一般的なもの。クオーツ式の腕時計。これを実験装置として考えよう。



  あなたも、色々な方式や原理の異なる時計、そう、なるだけユニークなものがいい。考えてみてほしい。例えば、蚊取り線香時計などでもよい。


 この時計の原理は、線香が燃えて短くなっていく長さで時間が計れる。立派な時間測定装置だ。



 さて、他には思い浮かばないだろうか、・・・振り子の壁時計?申し訳ない。これはちょっと問題が有る。最初に言い忘れていたのだが、実験室は宇宙空間に持って行くことになる。そのため、地球の重力が原理上必要となる振り子時計は使えない。

そういう意味では、同様に、水時計もだ。これも重力を使う。また、ちょっと違うが、日時計。これは地球から見た太陽の位置を利用している。従って宇宙空間に持って行くと使えなくなる。どんな原理の時計でもいいが、実験室内で閉じた、つまり局所系内で動作可能なものにしてもらいたい。



 尚、精度は問題としない。この実験室内では、全ては理想的な状態となる。常に完璧な精度が得られると考えてよい。だからどんな安物の時計でも高級時計でも同様に完璧な精度となると考えてほしい。


 ということで、その例として、もう一つ、ちょっと変わった時計を。


それはこのモヤシ時計。これは水を与えると根がどんどん伸びてゆく。その伸びる長さで時間を計れる。このモヤシは1時間で1mm伸びる。動作原理は、生化学反応とでも言っておこう。ご存知のとおり、この植物のマメの部分に蓄えられた栄養分を使って根の細胞を分裂させて伸びて行く。

 脈拍時計? なるほど、これは面白い。


あなた自身が実験台に立っていただける。それは有り難い。私もやってみよう。実験のときは緊張して脈が乱れないよう、お互い気を落ち着けよう。

 ・・さて次は?なに、ネジ巻き式ストップウォッチ! なるほどバネにつながったテンプルという重石を振り回すことにより、一定の時間間隔を刻むことができる。重力を利用した振り子時計と異なり、何処でも使用できる。もちろん宇宙空間の実験室でも大丈夫だ。


 さあて、他にはどうだろうか?なになに、腹時計はどうだって!




うーむ、確かに良く聞く時計だ。私の周りでも良くお見受けする。それに宇宙空間でも確かに動作しそうだ。しかし、どうやって計るのかな?・・・

なになに、あなたの友人は朝の7時に朝食をとると、12時ちょうどにお腹がグーと鳴る。それは素晴らしい!しかし実験はいつも朝の7時から開始しなければならなくなるのだろうか?・・・なに、長年の訓練の賜物で、途中でもお腹の空き具合で、時間が正確に分かるようになったんですって!

・・・素晴らしい!それはもう立派な時計だ。是非ともそのご友人に実験にご参加いただこう。


 いやはや、何でも有りだ。カタツムリ時計なるものはいかがだろうか。そう、カタツムリの這った長さで時間が分かる。例えばこのカタツムリは10秒で正確に1cm進む。




 おかげで沢山のユニークな時計が集った。その動作原理も様々だ。中にはこの私にもうまく動作原理を説明しきれないものも有るが、・・・まあ、余り深く考え無いことにしよう!



 さて、最後の実験時計としてアインシュタイン博士が考案した光時計を紹介しよう。




この時計は、二枚の合わせ鏡の間を光、今回はレーザーパルスが反射しながら往復する。その往復の回数を数えることにより、時間が測定できるというものだ。ざっと言うと、光の速度を、勿論、レーザー光線も通常の光と同様だから、30万Km/秒として、1.5mの鏡の間を往復させると通過距離は3mとなる。よって1往復に1億分の1秒かかるということになる。

ちなみに千分の1秒は1ミリ秒(1mS)、百万分の1秒は1マイクロ秒(1μS)、10億分の1秒は1ナノ秒(1nS)と呼ぶ、従って、この場合の往復時間は10ナノ秒ということだ。

ま、これも実用を考えると反射時の減衰とか、ビームの発散とか、工学的な改良が必要だろうが、ほかの時計と同様に実験室の中では理想状態であるから長時間でも問題無く使用できる。いや、むしろ他の変な時計と比べずっと安心できると思えるのだが。



 それではそろそろ実験室を宇宙船に搭載して、皆さんと宇宙空間の実験場に移動しょう。

宇宙船はS号,S'号の2隻用意してある。私はS号に、あなたはS'号に搭乗していただこう。もちろん実験用の時計は2組用意する。

おっと、腹時計!これは困った。こればかりは二組用意するのは難しい。

なに!双子なので大丈夫だって!それは幸運だ。やれやれ、これで問題なく実験が進められる。



 実験は非常に単純で、私のS号もあなたのS'号もそれぞれ一定の速度で走りつづける、つまり慣性航行することにする。そして、実験用に用意した時計がどのように変化するかを観察する。同時に観察し合える様、一箇所に集めておこう。

 そうだ、これから始める実験について予想してみよう。例えば、あなたが実験観測しているS'号で速度が速い場合と遅いのでは、それぞれの時計に変化が現れるかという疑問だ。

そう、クオーツ式の腕時計とその他の時計、例えば腹時計は乗っている宇宙船の速度が速くなればなるほどと、どちらかが遅れてくるような現象が起きるかどうかだ。速度によって腹時計が腕時計や、その他の時計に対して進んでしまう現象は、一言で言うと『速度次第でお腹は空きやすくなる!』と言う事だ。






 これは直感の問題になる、あなたはどう思うか。私は『そんなことは絶対起きない!』と思う。考えてもみてほしい。乗っている宇宙船が早ければ早いほど、カタツムリも早く動く!?とか、蚊取り線香の燃えが良くなって朝まで持たなくなる!?など、奇妙な現象が起きてしまうということになる。

私はやはり宇宙船の速度がどうであれ、その中の全ての時計は同じように時を刻み続けることがごく自然であると思う。

例えて言うなら、もし腹時計と脈拍時計がくい違ってくるなどという事態が起きれば、心臓と胃腸が不整合を起こしていることになる。極端な言い方をすると、乗り物の速度の違いでそんなことが起きるとなれば、うかうかと電車や、飛行機に乗ってられない。ましてや、宇宙船なんてとんでもない。



 このように今回は時計に代表させたが、すべての物理現象は速度非依存であり、このことは宇宙の基本原理そのものと確信する。

そうだ。あなたに念のためクギをさしておこう。もちろん光時計だけ特別だなんてことは、有り得ないですな!




以上の予想の元、実験は開始された


 私の宇宙船S号はあなたより前方を航行している。あなたのS'号の方の速度が速いため、そのうち追い越されることになる。その時になったら、お互いに時計がどの様に見えるかを観察し合うことにしよう。それまでは事前の予想通り、速度による影響が現れていないかどうか、全ての時計を観察しよう。




 まず、クオーツ式腕時計、これを基準にしよう。次は蚊取り線香時計、OK!モヤシ時計、OK!。脈拍時計、良し、ぴったりだ。ネジ巻き式ストップウオッチも、腹時計も狂い無し。カタツムリ時計、光時計も同様。

今のところ全時計に全く狂いは起きてないようだ。あなたの乗っているS'系の方も当然だいじょうぶだろう。念には念を入れてしっかり確認しておくように。



 さあ、お互いの実験室が観察できる位置に来た。私の方からあなたの実験装置である時計を観測しよう。万が一あなたが見落としている異変がないか、念のため。クオーツ式腕時計から光時計まで、全て狂いは無い。

あなたも、そちらからこちら側の実験装置をよお-く、観察すること。異常は無いですな。やはり我々の観測と同様、どれか特別に遅れたり進んでしまうような、異様な現象は確認されないですね。やはり、我々の直感は正しかった。これで安心して乗り物にも乗れるということだ。



 以上が相対性原理の意味するところであり、ごく自然な、ごく当たり前に思える原理です。 

「こんな事、当たり前じゃないか。わざわ時間をかけて実験に付き合せるな! こっちはそんなに暇じゃない」 と言って叱られないか、心配になる程です。

『光速度不変の原理』、これはしょうがないですね。実験的事実なので認めるしか無いですね。

 実は、これからが本番なのです。 役者はそろいました。 『光速度不変の原理』と、この当たり前のような『相対性原理』。 これ等を合わせて考えると、いわゆる特殊相対性理論を発見できるのです。

あなたもアインシュタイン博士になれるかも! 引き続き思考実験を進めましょう!
前のページ インデックス 次のページ