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Copyright Maeda Yutaka

1.4 ちょと寄り道(1) エーテル説?


 ところでこの光時計、相対性理論を受け入れない人々の間でよく批判にあっているようです。

かく云う私も、なんとなく釈然としないものを感じるところがあります。それでは、それのどのような所がそうさせるのでしょうか? ちょっと寄り道をして、もう少し詳しく考察してみましょう
 


 まず第一の疑念。『光の場合は光源の移動と関係無く、発せられた瞬間の光源が向いていた方向(つまり、反対側の鏡が在った場所)に向かって進んで行くような気がする』ということです。 


 そこで水面を伝わる波を使った波時計を考えてみましょう。どちらを向いて進んでいるかを判り易くするため、指向性を持たせた波を発生させて使います。


右の図は指向性方向(上)に、1波長間隔で振動源を10個並べた場合のコンピューター・シミュレーションです。 電波の場合はアレイアンテナと呼ばれ、よく利用されています。


この波をパルス的に発生させて波時計を作ります。 (実際にパルス的に発生させると、この様にきれいな指向性は得られません。しかし上下方向と左右方向の区別は付きます。つまり斜めに進んだ場合との判別が可能となります)


 下の図は光時計と同様に、波が反射板の間を行き来することにより、時を刻んでいる様子です。


           



それでは、この状態で波時計を移動させて見ましょう。


           



振動源よりパルス的に発せられた波は、上に向かって真直ぐ進んでいきます。決して反射板の移動につられて斜めに進まず、上の反射板が元在った位置に向かって進んで行きます。


 どうですか、探していたものが見つかりましたね。光はこんな伝わり方をしているのではと思いたくなりませんか。そうです、水面が波を伝えるように、光を伝える媒体『エーテル』を考えた方がイメージに合致するのではないかと。 


『光の場合は光源の移動と関係無く、発せられた瞬間の光源が向いていた方向(つまり、反対側の鏡が在った場所)に向かって進んで行くような気がする』というイメージは、とりもなおさず『実は、光のエーテル説を支持したかったんだ』という事になるようです。  


 ところでこの波時計の実験状況を再確認しておきましょう。波はまっすぐ上に進みました。何に対してでしょうか。それは水面に静止して眺めていた私達であり、そしてその水面にです。移動したのは波時計、つまり上下の反射板です。決して波は反射板の移動につられて斜めには進みませんでした。


それでは『結局、光のエーテル説を支持したかったんだ!』という自覚のもと、光時計に立ち戻り、もう少し検討を進めてみましょう。何についてかというと、このエーテル説は相対性原理と矛盾しないかという事です。


相対性原理は我々が住むこの物理世界で最も根本的であると思われる原理の一つです。私が、あるいはあなたが一定速度で移動しているというだけで、持っている色々な動作原理の時計(もちろん、もやし時計はおろか、心臓の脈拍時計や腹時計までも含まれます)のどれかが狂ってくるなどということは有得ない!という有難い原理です。


嫌ですよね、もし、速度の違いだけで、どれかが狂ってくる何かが変わってしまうような世の中だなんて! たとえば、遅れるように狂ってくる場合なら、全て遅れてくれないと。


ちなみに、全てが遅れた状態では、『おお!周りの全てがやけに遅くなったぞ!』などと、自分だけ気が付くなどということは無いですから。ご安心ください。


 前置きが長くなりましたが、エーテル説の世界で光時計を使って実験をしてみましょう。

 光時計が動かなくなったですって?


そうだ、我々はエーテルの中を移動しているので、あっという間に光時計の往復軸がずれてしまって鏡の外に飛び出してしまったようだ。


 他の時計は大丈夫かな? ストップウォッチだけは正確に動いているようだ。 うむ、それ以外は少し狂っているようだ。


 宇宙船の速度と向きを調整してエーテルに対して静止させて見よう。おお!やっと光時計が動きだした。エーテルに静止出来たようだ!この状態で全ての時計を再調整しておこう。


純粋にニュートン力学の代表?のようなストップウオッチなどは良いとして、クオーツ時計はエレクトロニクス(つまり電磁気学)と水晶の振動というニュートン力学系との合作と言えるかな。 同じくマクスウェルの電磁方程式で記述される光時計が動作しなくなっている状況では、少々狂ってしまうのも仕方が無い事だろう。


その他の時計も、動作原理として燃焼や生命活動などの化学反応だ。その際の電磁作用の影響度合いに応じて、狂いが生じたようだな。 


蛇足ながら、化学反応の過程で発熱などにより輻射熱が生じるが、これも電波や光と同じく電磁波の一種だ。

化学反応では、その電磁波の一種である熱は大変重要な要素となる。しかし、その熱までエーテル風に流されてしまうのであるからして、熱分布に偏りが生じてしまうのは避けられない。それにより反応速度が狂ってしまうのは無理からぬことだ。


 よし、今度は光速の80%ぐらいでやってみよう。どんな現象が起きるか楽しみですな。 さあ、一箇所に集めて実験開始!


 ・・・ おや、ちょっと顔色がよくないですな。大丈夫ですか? 


もう止めてくれとおっしゃるのですか。 『脈拍時計や腹時計が狂って心臓や、お腹が痛くなりでもしたら嫌だ』ですって?『相対性原理を満たしてない事はよく解ったから実験はもうお終いにしたい』、そうおっしゃるのですな。









1.5 ちょと寄り道(2) 見かけだけ?



 第二の疑念。『光が斜めに進むから、時計が遅れています』なんて言われても、それは実態ではなく見かけだけじゃあないのか、そもそも、光なんて蜃気楼やまぼろしの類と大差無いじゃないか!・・・と言うような感覚を覚えませんか?



  それでは、ちょっとお手を拝借。このテーブルの上に手を置いてじっと動かさない様に。


この光時計で使っていたレーザーの出力をちょいと上げて・・・エー・・・金属切断用・・・。


 よし。 さー行きますぞ、1、2、 おっと、どうしました? 手を引っ込めないで下さい。『冗談じゃ無い、手がちょんげれちゃう』ですって? ということで、光は金属を切断することもできるように、ニュートン力学とも張り合える立派な物理的実態ですな。




 それでは、出力を上げた光時計を使ってもう一度実験を行って見よう。


光時計の鏡の間隔大きくします。 ざっと300万キロメートル。 レーザー光は片道10秒かかる。一つは我々と同様に静止系に置くことにしよう。








二つ目の光時計は移動系として、我々の静止系の中を通りすぎて行く。速度は光速の半分の0.5Cだ。


鏡が重なった時点で光時計を始動させることにする。









 はたして移動系の光時計の遅れが見かけだけなのか、現実に起きている事実なのかを確認してみう。


 静止している光時計では10秒後に反対側の鏡(a地点)にレーザーパルスが到着する。 その時点で移動系の鏡は150万キロメートル進んでいますな。


光が遅れているのが見かけであるとしよう。 そうすると、静止している光時計のパルスがa地点に到着と同時に、移動系の光時計では反対側の鏡(c地点)に到着していなければならないですな。 よろしいですか?



             



 逆に言うと、我々静止系から見たレーザーパルスの通過点であるb地点は、実際には通過していないと言うことになる。


 さあ、実験結果を確かめてみよう。 a、b、c地点にそれぞれ観測ポイントを用意した。


さて、何処で観測します? もちろん静止系レーザーの到達目標であるa地点は有り得ないですな! 確実にレーザーパルスにやられてしまう。これは意見の一致する所。 選択はb地点かc地点かです。

見かけ説を信じる場合、お勧めはb地点だ。 私はc地点にしよう。 当然貴方はb地点ですな。


 さあ、始めますぞ。 どうしました? b地点に行かないのですか? 





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