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Copyright Maeda Yutaka

1.6.同時性 

 すれ違う系、つまり我々から見て、移動系との間では『同時』という概念が崩れてくる。 移動系内で同時に起こった事でも、我々静止系から見た場合、同時に起きたことにならなない。 もちろん逆に、こちらでの同時は、相手の移動系から見て、やはり同時では無くなるということになる。


 尚、ここでは、我々のいる側の慣性系を静止系。相対的にすれ違って移動して行く慣性系を移動系と呼ぶことにする。
それでは、そのことを確認するする実験を行って見よう。



 さて、今度の実験装置は図のような構成だ。


 中央にレーザー発生装置がある。 それぞれ前方向きと後方向きの二基が背中合わせで設置されている。


 さらに前後両端には実験員が配置されている。 前方はAさん、後方はBさんだ。 中央から、前端、後端までそれぞれ300万Kmある。






 レーザー光線は10秒周期でオフ・オンを繰り返す。 まず、0.5秒間だけオフその後9.5秒オンという周期だ。



   



実験員のAさん、Bさんはボタンを定期的に押し続けなければならない。 何故かと言うと、実は15秒以上ボタンを押さないと、彼らの椅子に仕掛けてある爆弾が爆発するようになっているからだ。 ちょっと気の毒ですが、実験のためだ。 ご協力いただこう。


 さらに気の毒なことに、そのボタンを押すためには、先ほどのレーザー光線路を遮らなければならない。 『それの何が気の毒なんだ』ですって? 


なんと、レーザーの出力は前回の実験で使ったように、金属切断用だ。だから、光線が一瞬途切れる0.5秒の間に、すばやく押さなければなならない。


もたもたしていると、手がちょん切れる。 光線が途切れるのを確認してから、ボタンを押しに行っていたのでは、よほどの運動神経の持ち主でない限り間に合わないだろう。

                 
       


 そこで実験員達には時計を携帯することを許している。 どんな時計でも結構だが、今回の実験員はクオーツ時計を選んだようだ。 そして時計で10秒のタイミングを計りながらボタンを押すことにする。


 これだど少々緊張する事に変わりはないが、割合簡単だ。 もちろん自分の脈拍時計や、カタツムリ時計でもOKだし、自分で1、2、3、と拍子をとって10数えても結構だ。 なにしろ、この仮想実験世界における時計精度は理想状態ですからな。


 さて、実験を開始してもらう。 先ず最初は実験を開始のタイミングを合わせるために、レーザー光線を時報よろしく、『ぴっ。ぴっ。ぴー』と一秒間隔で光らせよう。 この『ぴー』のタイミングで時計を0秒にセットすればよい。そして、その時点から時限爆弾もセットされる。 


10秒間オンした後、レーザーは0.5秒のオフ、9.5秒オンを繰り返し始める。 この10秒間隔の頭の一瞬の途切れ(0.5秒のオフ)でボタンを押してタイマーをリセットすることを繰り返さなければ、15秒後に爆発してしまう。 結局、実験員は時計を握り締め、カウントダウンしながら10秒間隔の頭でボタンを押し続けなければならない。

 ウーン…緊張しますな!


 ところで、この実験を行っている移動系内では、AさんもBさんも、もちろん同時にボタンを押していることになる。 レーザー光は中央より300万Km離れたAさん、Bさんに同時に到着するから、二人の動作は0.5秒以内で正確に同期している事になる。 万が一ずれてしまったら、どちらかの実験員の手がちょん切れてしまったという事になる。 なんとも、お気の毒な次第だ。

 さて実験は順調に進んでいるようだ。 我々はこの実験状況を静止系より観察してみよう。 AさんBさん、手をちょん切られないよう、頑張ってください。






 今、我々静止系側の中央基準点を、移動系実験装置の中央部が、左から右に通り過ぎて行くところだ。 レーザー光線のタイミングは丁度10秒間隔の頭であり、9.5秒のオンが終わって0.5秒のオフが始まる瞬間だ。


 引き続き観察を続けよう。 私はBさんに注目する、貴方は主にAさんに注目願いたい。


 今、Bさんの後端にレーザのオフの先頭が届くところだ。時計も次の10秒を指すところだ。 さあBさん今だ! おっと上手くボタンを押せたようだ。 やれやれ。 やはり時計の10秒間隔を確認しながらボタンを押すと上手く行くようだ。



   
     





 とこれでAさんも上手く押せたかな? あれ、さっきからじっとしていますって。 Aさんはどうしてしまったんだ、もう5秒もすると爆発してしまうじゃないか! 大変だ、きっとうっかりしてタイミングを見過ごしてしまったんだ。





















 何々、まだレーザー光線のオフの部分はAさんの所に到達していないですって? おお、それではボタンを押しに行けないですな。


いや、だけど今、Bさんはボタン押したばかりだ。移動系内ではAさん、Bさんは同時に動作していなければいけないはず! Aさんが危ない。きっとレーザー光線のオフが到達していないように見えているだけだ。


おお、お願いだ、Aさんの観察担当の貴方が代わりにボタンを押してあげてください!


 何、『ご免こうむります』ですって? 『目の前のレーザー光線は痛そうだ、とても幻には見えない』ですって? 確かに、移動系で発っせられたレーザー光線でも、こちらの系の何かに当たれば穴を開けてしまうはず。 そうだ、あなたを危険な目にあわせてしまうところだった。申し訳無い。



        


             



 ふむふむ、よく見るとAさんの時計はまだ10秒間隔の途中じゃないか。そうか! Bさんの後端はレーザー光に向かって進んできているから早く到達するのですな。 それに比べてAさんの前端は光線から逃げるように進んでいるから、到達は遅れてしまうという道理ですな。


 しかし、お互い、0.5秒にも満たない間に、こんなによく早口で会話出来たもんだ。 光速を超えるテレパシーなのか、まさに息がぴったり合っているという事でしょうか。


 それでは落ち付いて、もう少し観察を続けよう。 
  さあ、Aさんの所に光線のオフがとどいた。 Aさん今だ! よし! 上手く押せた。 確かに、Aさんの時計も10秒間隔の頭だ。



             

             



 なるほど。これで実験を終わにしよう。
 AさんもBさんも、怪我せず、目出度し目出度し。


 しかし、この実験結果はどう言う事だ。整理すると、AさんBさんの時計の例で解る様に『我々に対し相対的に移動する慣性系ではその場所によって時刻が違っている』ということになる。 従って、『同時とは慣性系間にまたがっては通じない概念』だったと言う事になるわけですな。 いやはや、なんとも不思議な現象だ。


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