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Copyright Maeda Yutaka

1.7 時空間


 それでは、前節の思考実験を時空図を使って整理してみましょう。

 下の図7-1は、移動系側に立って観た、実験装置の世界線です。世界線とは時間軸と、空間軸
で表された座標の中に、物理的対象物(事象)がどの時刻に何処にいるのかをプロットしたものです。

この座標で表わせられる『空間』(数学では座標が定義されば空間となる)を相対性理論では『時空』と呼びます。


          
                        図7−1

 移動系S’の時間軸は’として、5秒単位に目盛を振りました。また空間軸x’は5C単位の刻みです。大文字の”C”は1秒に進む光の距離30万Kmの省略表記です。


 実験装置は移動系S'上で静止しているため、A点、B点それ真上に伸びた世界線となります。


時刻0の瞬間に発せられた光のパルス(オンであれオフであれ)が10C(300万Km)離れたA,B両端に、10秒後に到達している様子が分かります。


 また、時空点(事象)を『A10』の様にダッシュを付して書きこんであります。これはS系での時刻と異なりS’における時刻を使っていることを示します。


 今度は我々が観測していた側である静止系Sに立って、この実験装置を観てみましょう。
        
                 図7−2


 図7−2の様に、実験装置は左から右移動して行きます。移動速度が速ければ速いほど世界線は寝てきます。


,AはS系での時刻=0の時空点です。これは丁度時刻0で実験装置の中央部が重なった瞬間のAさんBさんを表しています。


 注目すべきは、静止系から見たA地点とB地点の、移動系における時刻が異なっていました。実際に同時に覗き込むと、移動系の時計の針がちゃんと異なっています。前節の思考実験を思い出してください。


光のオフがBさんに届いた時点で時刻は10秒を指していました。これは図7−3のB10'に対応します。
        
                 図7−3


そして前端にいて、まだ光のオフがとどいていない上、時刻も10秒に満たない状態のAさんは、Ai'に対応します。貴方はこの時、レーザー光線を遮ってボタンを押すことを拒否しました。


 それでは、移動系での同時刻はいったい何処になるのでしょうか? 丁度、光のオフが前端Aに到着した瞬間がそうした。図ではA10'に相当します。


 尚、この同一時刻線の軸に対する傾きは、t軸に対する同一地点線と同じ角度になります。


 図7−4で大雑把に証明しましょう。
           
                  図7−4


 原点Oを挟んで等距離の任意の平行線に対して、原点を通る全ての直線は、マル印の様に等距離になります。よって、光の軌跡45度線OPを挟むα1,α2の角度は等しくなります。


 これらの事をたよりに、静止系Sの座標上に移動系の移動系S'の座標を書きこんでみましょう。
           
                   図7−5 


同一地点を繋げたもの(Ai'-A10'とかB10'-Bj')が時間軸です。S'の時間軸は斜めに傾いています。


同様に、B10'-A10'の様に移動系S'での同一時刻を繋げたものが空間軸です。これも斜めに傾いています。


さらに移動系内での同時刻(t’で10秒ごと)の実験装置の位置を重ねてみたのが図7−6です。
            
                    図7−6


 さあ、これでS系から見た、S’系の時空地図が出来あがりました。どの点を指定しても、即座にS’系での時刻と位置が求められます。しかしこれではまだ、指定の点がS座標上の何処に対応するかが分かりません。


何故なら肝心のS系の時間軸、空間軸xに目盛を振っていないからです。それではS系の座標軸に目盛を振って完成させましょう。


 まず、時間軸の対応関係を調べてみましょう。『第3節 時間の遅れ』の説明で式3−1により、S系に対してS'系は時間が に遅れているということが分かっています。


      
                    図7−7


 図7−7を例に取て説明しましょう。 原点Oで時刻[0秒]の移動系の時計がP点に移動したとする。この場合、Pにおける移動系の時計の時刻[?]は、静止系の時計の時刻に対しての少ない時刻を指している事になる。

 V=0.5cの場合、

    [?] の値は約8.7秒

となる。

 ところでS系では時間軸10秒上にP点があります。またS'系ではP点は8.7秒でした。これはP点のS’系時間軸t’上の目盛と考えてよいはずです。


 これらの関係を整理したものが図7−8です。それぞれ10秒の目盛の位置関係に注目してください。


        

                   図7−8


関係1
静止系での時刻、10秒にP1にて移動系の時刻を確認したら8.7秒を指していた。


関係2
移動系の時刻が10秒を指した地点はP2であり、静止系での時刻は11.5秒であった。


 次にグラフ上での長さを確認しましょう。今までのグラフの座標軸では[1秒:30万Km]を[1:1]で表してきました。仮に1秒及び30万Kmを1cmでグラフに表て見ましょう。図7−9の様になります。

             

                     図7−9


1秒時点でのt軸、t’軸で作る逆三角形に注目すると高さ1[cm]、横幅方向にはv/c[cm]です。当然、斜辺の長さは図中に示す通りとなります。


 7‐8図に7‐9図よって得られた関係を重ね合わせると図7−10の関係が得られます。

      

                 図7−10


グラフ上のt’軸一目盛(10秒)の長さは10・[cm]となります。つまり、t’軸の一目盛はt軸の一目盛の倍の長さで割り振ることになります。また逆の言い方をすると、t軸の一目盛はt’軸の倍の長さになると言えます。


 以上の分析により時間軸の目盛の長さ関係が明らかになりました。続いて空間軸’について分析してみましょう。


 ここまで来ると後は簡単です。 移動系内においても、当然10秒後に10C(3百万K)m離れた地点に到達していなければなりません。 
 そもそも、空間軸は時間軸と同じ角度で閉じていました。


              

                   図7−11


結局、図7−11の通り45度の光の軌跡を挟んで、時間軸と対称的な目盛とならざるを得ません。


 以上で、静止系Sから見た、移動系S’系の時空地図が完成です。移動系は静止系上、斜交座標として表されることが理解できました。


 驚くことに、空間軸方向でも座標が間延びしてしまいました。 この間延びしたS'系の座標を使って距離を測ると、長さが変わって見えることになりそうです。


              

                   図7−12


 そうです、これがいわゆるローレンツ収縮という現象です。 詳しくはDr.メイに実験してもらいましょう。


 ファーッアーッ、うん。 よく寝た。

 あれ、そういえば何か実験の途中だったような気がするな。 えーと、そうそう。 時間の遅れを確認していたら、理論的には長さも縮んでしまいそうだったんだ。 それを実験で確かめてくれとか、言ってたような・・・。

 しかし、動いている物の長さを測るのは大変なんだよな。 何か簡単に確認できる良い方法はないものだろうか・・・あっつ!!!!。

 こら! 蟻ども。 何をしている。 私が寝ていると思って、 それは私の大切なビスケットだ。 やめろ! 動くな! それ以上近づくでない! 



     



 やめる気が無いようだな。 よーし、それならそれで、こっちにも考えが有るぞ。 これだ! この粘土で動けなくしてやる! えい! どうだ。 参ったか!


 よし! やった。 これでしばらく動けないだろう。
 『可哀想じゃないかですって? 大丈夫。 気を失ってるだけです。 そのうち動き始めます。 今度は、これに懲りて逃げ帰るでしょう。 私の大事なビスケットも、これで一安心です。


 お! 粘土の裏にさっきの蟻どもの跡が付いてる。 結構強く叩いたのか、くっきりと窪みがついてしまった様だ。


 まてよ、ひょっとしてこれは使えるかもしれないぞ。 こうやって定規を当てて、蟻の隊列の長さが測れる。 これは、あの時の蟻どもを叩いた瞬間の長さに等しいはずだ。 いくらちょこまかと動き回っていても、 粘土を押し付けられた瞬間の、まさに、動かしようのない長さが、刻み込まれていると言って良いだろう。



  



 うむ、我ながら良い実験方法が浮かんだぞ。 この方法を使えば、S’系の移動する物体の長さを、実に簡単に測る事ができる。 実験装置としては、とにかく大きな粘土を用意するだけでよい。

 そして、たくさんの皆さんに実験に参加していただき、せいのっ!と皆で同時に、粘土を移動物体に押し付ければよいだけだ。 もちろん押し付けは瞬間的でなければならない。

 大丈夫。 今まで実験に参加されていた皆さんなら、十分上手にこなせます。


 それでは早速、実験の準備に取り掛かろう。 まずはS'系に約200万kmの長さの宇宙船を用意しよう。


 200万kmの長さだという事をはっきりさせるために、宇宙船に200万kmの定規を貼り付けておこう。 定規の目盛りは凹凸を付けておく。


粘土を押し付けた瞬間、さっきの蟻どもと同じように、凸凹の目盛りを写し取れるようにするためだ。


 さらに、時間との関係を調べられるように、時計を宇宙船の側面に貼り付けておく。 もちろん文字盤のガラスは取り外しておく。 やはり粘土を押し付けた瞬間、それぞれの場所での時刻を粘土に刻み付けるためだ。


 よし、準備完了。 この『粘土押し付け転写測定法』により、S’系の宇宙船の長さも時刻も、測定した瞬間、粘土に固定化され、まさに動かしがたい証拠が刻み込まれることになる。




   



 宇宙船の速度は前回の時間の遅れの実験と同様、約0.87cとする。
 これにより、

         ガンマ係数:γ=1/√(1−v/c)=2

 となり、 S'系である宇宙船での時間の進み具合いは、丁度半部となる。


 それではいよいよ実験を開始しよう。 静止系にて、原点Oを宇宙船の最後尾が通りかかった瞬間に、全員で粘土を押し付けよう。 前もって、全員の時刻を、その時間に合わせておこう。


 もちろん押し付ける相手は移動する宇宙船です。 先ほどの蟻ではありません。 素早く押し付け終えてください。 準光速ですので非常に危険です。 くれぐれも十分注意願います。


 いいですか、さあ、来ましたよ。 3、2、1、それ!


  



はい! もういいですよ。 皆さん、お怪我はありませんでしたね? やれやれ。 さあ、実験結果はどうなったかな。 おお、うまく写し取れているようだ。 宇宙船も時計や定規も、くっきりと跡を残している。 さてこちら側、つまりS系の青い定規を当て比べてみよう。


 うーむ。 やはり縮んでいる。 粘土の200km定規は100kmの長さしかない。 時間の遅れと同様1/2だ。 S'系は長さも1/γに縮んでいる様だ。


 ところで、時間の方はどうなっているかな? あれ、ちょっとずつ時間がずれている。 ちょと見にくいが、ロケットの後ろ端しのが0sに対して次が-1.4sで、その次は-2.9sかな。 次は-4.3s、一番頭のやつは-5.8sといったところか。


それもそうだ。 確かに前の実験で時間の遅れを確かめていた時、移動系の時間はその場所場所で時間が異なっていた。 しかし、こうやって粘土に型取りしてみると壮観だ。


 ロケットのような硬い物が、時間がずれたまま、同時に存在する事が不思議に思えてくる。


時空図を使って整理しておこう。


 まず、粘土を押し付けた所は原点の付近だ。 ロケットの進行方向の右方向に、長さ100K以の粘土を用意して型をとった。 時刻はロケットの後ろ端しが、原点にてお互い0sになるように実験を準備した。 




 ロケット前端の時計-5.8Sに対応するS系での時空間座標は-300万km、-11.55sの点だ。 11.55s後に原点に到着する。 赤い点線で示す通り、この軌跡はS’系の時間軸t’と同じだ。




 それではロケットの他の部分はどこに在るのかな。 もちろんS'系で-5.8s時点のロケットの他の部分の事だ。 当然S'系で同時刻線上のことだからだから、x’座標平行な線上となるな。 図に書き込むと、



こうなる。


 うーむ。 やはり時間がそろっている方が気持ちがいいな。 よし。 これを粘土に写し取る方法を考えてみよう。


 0.87cの速度だから、一番後ろの時計、これを5番の時計と呼ぼう、これが-5.8秒を指しているのは、こちらのS系時間では2倍の−11.55秒。 距離は−300万kmの地点となる。



 次に25万kmずつ前方の時計を4番、3番、2番として、最前方の時計を1番時計とすると、それぞれ図のように

  {−8.65秒:−200万km}、
  {-5.77秒:−100万km}、
  {−2.89秒:0km}、
  {0秒:+100万km}

の時空点となる。

 そうすると、粘土を−300万kmから+100万kmの位置に置いておき、−11.55秒から100万km毎に−8.66秒、−5.77秒と、ロケットの移動に合わせて、粘土を押し付けなければならないと言う事だ。


んーん。 飛んでくるロケットの時間を揃えたいがためだけに、わざわざ場所毎に時間をずらして押し付けるんだって!?


何のためにこんな、ばからし実験をやらなけらばならないのだ? えーと、『時間が揃ったロケットの粘土型を取りたいからじゃなかったのか』って?


そうだ!そうだった。 やめた、やめた。ばかばかしい。


結局、以下の通り、同時に型を取る。 このことがS系での現実だ。



それがS系で意味をなす長さの定義ということになる。 同様に、S’系の時間が、ずれたまま型に取られていても、現実にS'系での時刻だったとして受け入れるしかない。



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