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Copyright Maeda Yutaka

1.8 ミンコフスキー時空とローレンツ変換


1.8.1 ミンコフスキー時空


 今まで時間軸tは[秒]を単位としていました。グラフの一目盛は1[S]とか10[S]という様に割り振って説明しています。また空間軸?の方は[m]を単位としています。 グラフ上の一目盛は1C[m](30万K[m])とか10C[m](300万K[m])として説明しています。


 これ等の表現方法は日常我々が慣れ親しんでいる時間‐位置関係の表現方法(縦に書くか横に書くかは別にして)です。身近なところでは列車のダイヤグラムなどが有りますし、ニュートン力学の教科書でも同様の表記方でした。


 図2−12aのように、1秒一目盛に対して30万Kmを一目盛としているのは、光の軌跡が45度になるように、グラフ上で表現したかったからです。


 ところで、図7−12b同様に光の軌跡を45度で表現する別の方法です。



          

        図7−12a                  図7−12b


 この座標では、時間軸に相当する縦軸が光速度[m/s]×[s]であり、結局ctは[m]という距離の単位になっています。 これは『1mを光が進むのに必要な時間』と解釈してください。 相対性理論では時空をこの座標で表現し、ミンコフスキー時空と呼びます。


 時間軸に相当するものが距離のになってしまいました。ここに至っては、なんだか抽象的になてしまいましたね。 以降、時空はこの”正統派”の表現法であるミンコフスキー時空で表すことにします。 当面、同じ物だと割り切って下さい。


 ミンコフスキー時空における世界点で、S−S'間の対応関係を整理してみましょう。
 図8-1の点は静止系:Sの座標で大雑把に

      空間軸:20[m]  時間軸:34[m]/c≒1.1×10-7[秒]

となります



 同じ世界点を移動系:S'で読み替えてみましょう。 同様に大雑把には

      空間軸:10[m]  時間軸:30[m]/c≒1.0×10-7[秒]

となります


               *マウスを重ねるとS'座標を表示

              

                    図8−1




1.8.2 ローレンツ変換

 いちいち座標から対応を読み取るのは大変ですです。 そこでこの時空図を基に、S-S'の間の座標変換式を求めてみましょう。


任意の世界点PをS系の座標を用いてP(x,ct)とします。

      


P点を通るのS'系での同一時刻を点線で表しました。ct軸との交点をTとします。

         



次にこの同一時刻線をS系の座標を使ってで記述しましょう。

     

まず、TのS系での高さ(=ct座標値)を求めます。


     


    よって、  

一方、ct軸上で重なるS'系時刻T'との関係は図7−10より

    よって  


     

これに先ほど求めた

  

を代入すると

  

よって、求めるt’の変換式は

  

となります。



同様に、空間軸のx’に関する変換式を求めて見ましょう。

     

導出方法はt’の場合と全く同じです。(xの方はcが掛かっていない事に注意)

 

求める変換式は

 

これt’,x’の変換式をまとめて書いておきます。これが、かの有名なローレンツ変換の式です。

  
  

共通の項を

  

と置き、速度vに依存するγ係数(ガンマ係数)として、括り出して表記すると、

  
  

となります。

また、逆変換式(ローレンツ逆変換式)は

  
  

となります。これは、S-S'系の対応関係は、運動方向の左右が逆なだけ、つまり相対速度が+/−の差でしか有りません。 従って、x、x’と、t、t’を入れ替えて速度をマイナス符号にするだけで、逆変換式を導き出せます。


 先々の準備のため、ローレンツ変換を行列化しておきましょう。

まず始めに、時間軸に合わせてctを一つの次元として扱います。
  
  

ここで、

     
 
と置くと

  
  

これを行列形式に置き換えます。

  

さらにローレンツ変換の係数部分を二次元の行列Lとして括り出し、指標を用いた成分表示に変えて見ましょう。

      ただし、 

アインシュタインの縮約の規則を使い、Σを省略します。

  

この規則は『一つのの項に同じ指標(インデックス)が二度書かれていたら、その指標に関して次元分全てのΣを取る』と言うものです。


 ローレンツ逆変換式は係数Lの逆行列を使い、

      ただし、  

と書く事が出来ます。

尚、ローレンツ係数の逆行列関係を参考までに

  

Eは行列風に言えば単位行列です。



 進行方向に垂直な座標軸を追加して、ローレンツ変換の係数を4次元分全て表すと、

  

となります。




 うむ。 ローレンツ変換で表されるS'系時空間軸の傾きを、実際に見てみたくなったぞ。


よし、そのための実験装置を、早速作って見よう。



まず、細長い棒状のケースにLEDをずらっと配置。

      

LED一個一個に、プログラム式電子タイマーを取り付けて、一定の時間間隔でLEDを点滅させられるようにしよう。


さあ、これで完成。
まずは、全部点燈させてみよう。

      

よしよし。 ちゃんと光っているな。


LEDの点燈間隔をプログラムしてみよう。 時間方向と空間方向のベクトルを矢印で表示させるものだ。


よし、できた。 試しに、手に持って、振ってみる。 残像を見るために部屋を暗くして、 せーの、フン!


     

どうかな。 一瞬だが、空間軸の長さベクトルが半径方向に、時間軸の時間ベクトルが円周方向に、それぞれ浮かび上がって見えたと思うが? 見えたかな。



これで良し。次の確認は撮影装置の方だ。 棒状LEDケースを静止した状態でカメラに撮影してみる。 つまりS系側に在るLEDの撮影となる。 これがそのLEDケース撮影用のアレイカメラだ。


        


小型CCDカメラが横一列にたくさん並んでおり、分担して目の前をスポット撮影する。 各カメラは、時刻合わせをした独自の電子時計を持ち、一定間隔でコマ取りを行う。


画像を合成するときに、時間軸と空間軸のベクトルを単位ベクトルとして長さを揃えたい。つまり、

             |ct|=|x|=1m

となるようにコマ取りしたい。


空間軸方向はLED16個を使って点燈表示している16個分の長さは1.14m。そのうちベクトルとして点燈させているLEDは14個、その長さは単位ベクトルとするため1mだ。

時間軸の方も単位ベクトルとして1mに揃えたい。 そのためには、時間ベクトル14回分のコマ取り総時間を1[m]/C[m/秒]秒間とすればよい。 

      コマ取り間隔=1/14C=1/(14・3×10-8
              =約2.4×10-10[秒]

つまり、0.24[n秒]間隔で14回シャッターを切ることになる。さらに残りのLED分も含めると1回の撮影で16回シャッターを切ればよい。


 撮影が終わったら、それぞれのカメラで撮れた画像を横につなぎ、さらに時間順に下から上に並べて合成表示してみよう。

         


おお! 見事に時間軸を構成する時間単位ベクトルと空間軸の長さ単位ベクトルが表示されている。 さすがに手で振った場合と比べ、格段に鮮明に写し出されている。うむ、実験装置の調整はこれで完了だ。


 そうだ。せっかくだから、この実験装置に名前を付けておこう。ウーン・・・よし、『メイの時空間座標単位ベクトル表示装置』としよう。 どうだ、私の名前が入った、とてもかっこいい名前だろう。


さて、いよいよS'系の時空間軸ベクトルを表示させる実験だ。


実験内容は、このアレイカメラの前をLEDケース、つまり、『メイの時空間座標単位ベクトル表示装置』を高速で通過させる。 つまり、LED側がS'系となる。


あとは、先ほどの静止時と同様、カメラでコマ取りをして画像を合成表示させるだけだ。


よし、実験開始。 アレイカメラ撮影開始。 LED移動スタート! 



       通過3秒前。
       2秒前。
       1秒前。

 

       通過!

よし、カメラ停止! 実験終了。




さてさて、上手く撮れているかな?



      


おお! すばらしい。 何と、グラフ用紙の上でしか見ることが出来なかったS'系の時間軸と、空間軸がくっきりと撮れている。 棒状LEDケースそのものはローレンツ収縮で縮んでいるが、空間軸の単位ベクトルの長さ自体は1mからやや伸びている。


全く、ローレンツ変換の論理的な予測と同じだ。ローレンツ収縮や時間の遅れが手にとるように分かる映像だ。 


よし。 実験は成功。 この実験装置、そう『メイの時空間座標単位ベクトル表示装置』は今後色々と利用できそうだ。 大事に取っておこう。






1.8.3 不変量と距離


 次に、このミンコフスキー時空について考えてみましょう。

 ニュートンは、力学を質点の位置と時間の関数で定義しました。通常、質点の位置は (,x,x) など3次元の直行直線座標(デカルト座標)で表し、時間は全宇宙の質点共通(特殊相対性理論では慣性系に固有の時間を考えましたが)であると考え、1個の変数  などで表します。






 質点は3次元のデカルト座標で表現出来る以上、ユークリッド空間に存在するとされました。つまりこの物理空間・全宇宙はユークリッド空間にはめ込まれており、全宇宙共通の時間に合わせて、物理現象が起きていると考えるわけです。

もちろん物理現象を記述する上で、他の曲線座標系、例えば楕円座標や球座標などが都合が良い場合は、技法としてデカルト座標以外を用いることを行うわけですが。



 『ユークリッド空間や時間は誰が作ったのでしょうか? 神様です。 いやいや最初から在ったんでしょう。 云々かんぬん』と言うふうに、『物理以前の自明な概念であり、あえて言えば神学や哲学の範疇である』と、ニュートンも天下り的に時間、空間の概念を受け入れていた様です。

この『ユークリッド空間で宇宙は出来ている』という発想は、ニュートンならずとも、ごくごく自然なもので、中学校の数学などで座標やグラフの授業を受けると、あっと言う間にこの世の中はユークリッド空間だと悟ってしまいます。中学校の先生は、この世の中はユークリッド空間できているなどとは、教えていないはずなのですが。

以降、私たちはユークリッド空間という名前は忘れても、この概念の中で全てを考えるようになります。

しかし、相対性理論や量子力学を知るうちに、この物理空間に対する概念は、現実生活上の便法でしかなかったことに、気付かされます。



それでは座標変換をもとに、ユークリッド空間の構造から探ってみましょう。 空間の重要な要素として”距離”はどのように定義されているのでしょうか。


まずは、2次元空間のデカルト座標
Xで考えます。 二点間の微小距離をΔsとすると、距離の二乗、は以下の通りピタゴラスの定理を使って表されます。







実際にメモリを読んで見ましょう。






赤い線の距離(長さ)は√5となります。

この赤い線を同じメモリを振った別の座標系x(緑)で読んで見ましょう。 今回、座標は下に2、右1にずらした位置とします。







 やはり距離は√5です。 当たり前ですか? そうは言っても緑の座標を作るときに、正確に青の元の座標をコピーし、上手くずらして重ねなければなりませんでした。 結構手間なんです。


 座標をいちいち目で読み上げるのは大変です。変換式を使いましょう。 緑の座標から青い元のX座標への変換式(厳密には、元の座標に戻すことを逆変換と呼び、逆変換式ということなります)は、下に2、右1にずらした位置ですから

    

となります。 線分の両端の位置を元の座標に変換して、距離を求めても同じになることは、確かめるまでも無く明白ですね。
 ところで、別の座標系で読んだ値を、元の座標系に読み直す場合の変換式は、以下のように関数を使って一般化(一般座標変換)されます。 パラメータは変換前の座標セットです。

    

イメージとしては、以下の図の様に,xを二次元の変数として三次元目にX,Xの関数がそれぞれ定義されているといった所でしょうか。

    



そして、点(,x)が決まるとX,Xが定まるという具合です。

    


もちろん,xの座標を図の様に直線直行座標(デカルト座標)に描いたことは、単にイメージをつかみ安くするための便宜上のことです。 特殊相対性理論での移動系S’に住んでいる人たちは、静止系から見て、あんなに座標軸がひしゃげてしまっていても、自分の系はデカルト系と思っていたわけですし。



 次に座標を回転させて見ましょう。

 図の様に、約27°回転させるとぴったり重なります。
メモリを読んで見ましょう。線分の左下端の軸は2.236ぐらいまで読み取れますか? メモリが粗すぎで無理ですね。 元の座標上で三角形の斜辺の長さとして見なせば、正確に√5、いわゆる「富士山麓・・・」だと確認できます。 同様に右上端は2√5、約4.472といったところでしょうか。 もちろん軸の方は両端共0です。





やはり√5です。 当たり前ですね。

この場合の元の座標に戻す変換式はどうなるのでしょうか? 左回りにだけ回転させた座標からの変換式は

        ただし   


試しにこれを使って、x座標上の右上端のメモリを、元のX座標に逆変換してみましょう。

    


X座標のメモリ(4,2)が求まります。同様に左下端のメモリは(2,1)となり、やはり距離は√5となります。

 このように、座標が変ると当然メモリの読みは変わってきますが、距離は不変です。 当たり前だ!と言われそうですが、この不変という事が後々重要な意味を持つようになります。



1.8.5 計量


 続いて座標軸が縮むとどうなるのでしょか。以下の様にメモリが細かくなります。この座標で線分を測るとQ(4,4)、P(2,2)なので距離は2√2と大きくなってしまいます。
 『こんな座標、使えません!』と言われそうです。 ところがx2座標が縮んでいるだけなので、x2軸の読みを

               『1/2に補正』

するだけで距離は測れます。 特別の手間が増える分けではありません。





元のX座標への変換式はもちろん、以下の様になります。

     


元の座標に変換して距離を確認してみましょう。


    


伸縮の場合は、ずらしたり、回転させた場合とくらべ『補正』が必要となりました。


 次は座標を傾けてみましょう。
図でx2座標の傾きは45°です。





さて、この場合も補正が必要そうです。補正値はどうなっているのでしょうか?
ぱっと見、『x1軸を2倍に補正』と言いたい所でしょうか。

S2=(1・2)2+12=5 となって、見るからに正しそうです。

ところが次の図ではどうでしょうか?





S2=(0・2)2+12=1となってしまいます。もちろん元のX座標ではS2=2になりますから、この補正方法ではだめですね。


 正しい補正方法を探ってみましょう。
この場合の逆変換式はx2座標の傾きをθとすると

  

tanθは定数です。 45°の場合は1なのですがaとしましょう。


  

a=1と置いて、早速検算してみましょう。
1=0, 凅2=1ですから、

  儡2=02+0+2・12=2

となり、合っています。
念のため、その前のケース、凅1=1, 凅2=1の場合もS2=5になるか、確認してみましょう。


  儡2=12+2+2・12=5

となりました。 みごと、合格です。
ところで

  

という式は

  
  ただし、

というように、整理出来ます。
さらに凾をベクトル、定数部gを行列のそれぞれ要素と見なすと、

  , 

と表せます。
gは計量(メトリック)テンソルあるいは基本テンソルと呼ばれ、空間の距離を定義する行列です。一般相対性理論を理解する上で重要な概念であり、今後しばしば出てきます。

今回の例でいうと、

   『x2座標がθ=45°傾いた座標で表される2次元空間の計量は

        

   です』

というような使われ方になります。
さらに一般相対性理論でしばしば(と言うよりは、しょっちゅう)現われる表記法として、

           

           

と省略して表記します。これはアインシュタインの『縮約の規則』というものです。
『項の中でベクトルなり、行列の同じ添字が上下に出てきたら、積和を取る』というものです。随分、すっきり見えますね。



 『計量はいいとして、わざわざこんな、へんてこりんな座標で計って何がうれしいのか?』と言われそうです。 その通りで、この場合は特にうれしくも有りません。 物理的な意味は特に有りません。 今後、時空座標を扱う上での数学トレーニングと思ってください。

 ところで、今までに出てきた逆変換式をもう一度並べて見てみましょう。


@座標の平行移動
(ずらし)
A座標の回転 B座標の伸縮 B座標の傾け

実は、これらの式は以下の様に行列の式で表現できます。


    

実際に当てはめて見ましょう。

@座標の平行移動
(ずらし)
B座標の回転

B座標の伸縮 C座標の傾け(斜交座標)
 



それぞれ上手く

     

という行列の1次式の形に納まります。

 このような形に変換式を書き表せる変換をアファイン変換と呼びます。 日常、目に映る物の形は視点により変形します。 この見た目の変形は、アファイン変換の一例です。

 先ほど、これ等の座標変換に物理的な意味は無いと言いましたが、実用面ではいろいろと意味があります。 例えば、コンピュータグラフィックスなどではアファイン変換を利用して、立体画像を計算しています。 いわゆる3DのCGゲームなどが身近な応用例でしょうか。 道理でこれらの変換例は、見覚えが有った?わけですね。

視点が離れて、物の大きさが小さく見えたとしても、その物の長さが縮んだわけでは有りません。

そんな常識的な事をいちいち強調するなと言われそうです。 しかし常識的には似たり寄ったりの、すれ違いながら眺めた場合の変換が、ローレンツ変換だったわけです。 そして、そのローレンツ変換では、まさに長さが縮んでしまっていました。



一般に変換式はアファイン変換の様に線形とは限りません。 スプーンの歪んだ写像の場合の様に、どう考えても曲線座標に変換せざるを得なくなる場合が出てくるでしょう。 変換式は連続でかつ、互いに一価(変換先が2点以上に対応しない)でありさえすれば成り立ちます。 その場合の座標は曲線座標系となります。



一般座標変換の例として極座標への変換を考えましょう。






この場合の変換式は

      

です。 極座標xでの読みは

     , 

となります。 極座標xで計った距離は

    

やはり距離は一致します。 『角度方向の成分x2が消えているから、だまされた様な気分!』ですね。

 この極座標も直行座標の一種で、曲線直行座標というものの一つです。 しかし極から遠ざかるほど、角度方向の成分x2はメモリ幅が伸びて、長さの値が小さくなってしまいます。 つまり、場所によってメモリが違うので、任意の2点間の距離を計るのは難しくなります。







このような場所によりメモリの巾が変わってくる場合の距離の測り方を探って見ましょう。


 x座標上の任意の点Pの近傍で微小距離をds考えます。 『先ほどの説明で、P−Q間のΔsも微小距離ではなかったのか?』とおっしゃられそうです。

そうです。 その通りです。 説明の都合上しっかり座標を座標軸のメモリで読んでおりました。 つまり微小距離というふれこみにもかかわらず、目に見える?大きさのΔsだったわけです。

しかし、今後曲線座標を扱う上では、座標の曲がり具合が無視できるほどの微小さが必要となります。 そのため今回のdsは微積分で出てきた、いわゆる極限的に小さい無限小距離のdsです。

あまりにも小さいので、dsを継ぎ足して曲線を構成するこが可能となるような、極小直線です。 これを『線素』と呼びます。

 前置きが長くなりましたが、座標上の線素dsの長さをを求めてみましょう。
曲線座標系であっても、P点近傍では座標は直線とみなせるので、線素に対応する座標上の微小距離と、X座標上の微小距離とは等しくなります。 よって、まずはX座標(直行座標系)での微小距離を求めます。

ピタゴラスの定理を使って

   

と置きます。

さらには、それぞれを変数とする関数ですから下の図のようにdxの全微分として表せます。 


         



  
   

よって

 

展開して

 

dxの項で整理し直すと



  

ただし



さらにアインシュタインの縮約の規則を使って

 

       ・・・(アインシュタインの縮約の規則は、添字が上下に出る項は積和を取る 
             例:
    )

 


ここでのgは微小領域における計量です。これが全域に渡って分ればその座標系での距離が求められる事になります。

早速、極座標の計量を求めてみましょう。

変換式は

  

です。 これを計量の一般式に代入すると




が求まります。
これにより距離の二乗は

 

と求められます。


先ほどのアファイン変換における座標の伸縮例と似ています。 ただし伸縮の係数がx1軸、つまり極からの距離に比例する点が異なってきます。 

 この計量を求める一般式を使って、前出のそれぞれの座標での計量を求めてみましょう。

まず、ずらし(平行移動)の場合

変換式は
   
計量は


となります。

この調子で、全部を整理してみます。

座標変換名 逆変換式 計量
変換元
ユークリッド空間
[デカルト座標]
@座標の平行移動
(ずらし)


A座標の回転
B座標の伸縮
C座標の傾け
D極座標変換


時@平行移動とA回転で計量は変換前と同じであることに注目してください。変換前と変換先は同じメモリ巾を持つ直線直行座標だからです。つまり座標系自身に変形が無いため同じ計量を持つわけです。

これを3次元に拡張し、後々のために、3次元ユークリッド空間の計量として


   

と定義しておきます。



1.8.6 擬ユークリッド空間


ミンコフスキー時空図では、時間軸<t>を無理やり<ct>とし、長さの単位を持つ軸に変更しました。 そのあげくに『図の表現上は同じでしょ』です。 なんだか怪しいですね。 

時間と長さが、ごっっちゃ混ぜになってしまった空間の”距離”って何なんでしょうか?

試しにS系の座標Xで原点OP間のユークリッド空間での距離の定義でを測って見ましょう。メモリを大雑把に読みます。多少の誤差は気にしないでください。

 尚、ミンコフスキー時空での座標の4次元表示(ct,x
,x,x)に備えて、今まで(x,ct)と表記していた要素位置を、(ct,x)と入れ替えておきます。





S系の座標X
ではPの読みは(30,30)です。 よって距離を儡とすると

    

一方、緑の
s’系座標xでのPの読みは約(21,21)、これはローレンツ変換

    , 

によって求められる値でもあります。 同様にs’系座標xでの距離を計算すると

    


計算で確かめるまでも無く、それぞれの距離は異なります。 これはいったいどういう事でしょう。

先ほど確かめた、アファイン変換などの座標変換では、距離は不変でした。 万が一異なる場合は、変換式が誤っていた場合でしか有り得ません。

と言う事は、ローレンツ変換が間違っているのでしょうか? いえいえ、その考えは本末転倒です。 ミンコフスキー時空では最初にローレンツ変換ありきですから。
疑わしきは距離の定義となります。 なぜなら、時間と空間を無理やり混ぜてしまったのですから。


S系の座標Xの読み(30,30)とs’系座標xの読み(21,21)との間で共通の量は何なんでしょうか?

ちょっと考えると 30−30=0、 21−21=0 で引き算した値は共通の量です。

確かにS系で45°の線上は光の軌跡であり、s’系も光速度不変により、x’=ct’となるように座標が傾いています。 ひょとしたら距離:Sは ct−X なのでしょうか?

さらに考えると、ユークリッド空間での距離Sはそれぞれ二乗してました。 それにならって、それぞれを二乗した量の900−900=0、441−441=0 とも考えられます。

以下のように別のの点Pで確認してみましょう。





どうですか? 30−0=30、 32−11=21となり単純な引き算では無いようです。 もう一方の二乗する方のSでは 900−0=900、 1024−121=約900 となって上手く一致します。 


念のため、もう一個所確認してみましょう。





やはり二乗する方のSでは 0−900=−900、 121−1024=約−900 となって上手く一致します。 

この様にで定義される距離の様な”量”であるsは慣性系間で共通の不変量になります。 相対性理論ではこの『距離もどき』を四次元距離と呼びます。 また微小距離:dsも四次元距離を構成する線素となります。

この擬ユークリッド空間の計量(メトリックテンソル)はミンコフスキー計量と呼ばれ4元分全部書くと

  

となります。


4次元の座標軸を

  

と表現すると、S系の座標Xs’系座標xとの関係は
          

ローレンツ変換、ローレンツ逆変換式でそれぞれ

  

と表され、四次元距離:dsの二乗は

  

となり、S系、S’系共通不変の量となります。




 以下にユークリッド空間と比較してみました


座標変換名 逆変換式 計量
変換元
ミンコフスキー時空
(擬ユークリッド空間)

 [デカルト座標]
  
ローレンツ(逆)変換

  




 もう一つこの『距離もどき』と『距離』との違いです。
二点間のを結ぶ経路の最小値が距離(ユークリッド空間)であるのに対し、最大値が距離(擬ユークリッド空間)となる点です。




直線距離のSaは3.9ですが、R経由の道草距離Sb+Scは3.4です。 他にもいろいろ試して見てください。 擬ユークリッド空間(ミンコフスキー時空)での距離は、あらゆる経路の中で最大値となります。


 ユークリッド空間での『距離』は回転変換や平行移動変換に対して不変量となっています。そしてミンコフスキー時空での『距離もどき』はローレンツ変換に対して不変量になっています。


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