1.9 力学と質量
ニュートン力学は相対性理論の速度差vが0に近い(v<<c)場合の近似として解釈されるようになりました。
ところで、これだけ物理の要素が変わったからには、他に何か有りそうです。
また、例によってDr.メイに実験してもらいましょう。
なになに、力学を調べてみろだと! まったく人使い・・じゃなくて犬使いの荒いやつらだ。
ニュートン力学は覚えているかな? 忘れてるといけないので、おさらいをしておこう。
α=F/m
質量:mに力:Fを加えるとαだけ加速する。
v=α・t
加速度:αでt時間加速すると速度はvとなる。
ン・・・、ちょっと表現は教科書と違うかもしれないが、まあいいだろう。とりあえず実験を進める上では、これぐらいで十分だ。
手始めに質量m、これを準備しよう。 これは、重量級の時計。鉄球に時計が埋め込まれており、丁度1Kg・・・だったと思うが?・・・ そうそう、丁度料理用の秤があったからこれでで確認してみよう。
あれ!ぜんぜん針が動かない。
おお、そうかそうか、ついうっかりしていた! ここは宇宙空間の実験室だった。 重力が無いから計れるわけがない。
しょうがない。 早速だが、先ほどの力学を使って、こいつの質量を確認しよう。
アイデアとしては、この『重り時計』を押してみて、動きにくさから質量を計ろう。 重ければ重いほど、動きにくくなるはずだ。 押す力の加減は、この料理秤をそのまま使えばいい。
では、ちょいと計算してみよう。
質量:mに力:Fを加えるとαだけ加速する。
α=F/m
逆に、Fの力で押してαの加速があったら、質量はmである。
v=α・t よりさらに移動距離:yは
y=∫αt dt=αt2/2
となる。
逆に、移動距離から加速度を求めるには
α=2y/t2 ・・・ 式8-2
これを式8−1に代入すると
m=Ft2/2y
ところで、Fのコントロールだが、重り時計に押し付けた時の目盛りを1kgにすると、そのときの力:Fは
F=mg=1[kg]×9.8[m/秒2]
となるように作られている。 gの9.8[m/秒2]はもちろん地球の重力加速度だ。
絶えず1kgになるように押し付けいていると、移動距離:yから質量:mが式8-3により逆算できることが分かる。
m=9.8t2/2y[kg] ・・・ 式8-3
よし、実験開始だ。 実験は貴方にお願いしよう。
まず、秤をねかして手に持って。 つぎにこの『重り時計』に横から押し付けてどんどん加速する。 絶えず目盛りが1kgになるよう上手く力を加減すること。 準備はよろしいですか?
さあ、スタート。
・・・よしよし・・・。 うまいうまい!
いやー、 貴方、上手ですな。 何度やっても4.9mの移動距離になる。 やはり、この重り時計は重さ1kgの方でした。
そうすると、こちらにもう一個有る、この『重り時計』は、2kgの重い方のやつだな。 よし、ついでに確かめよう。
同じ様に1kgで押すと、こちらの2kg重り時計は重い分、移動距離は半分の2.5mにしかならないはずだ。 こちらは私が押そう。 じゃあ1,2,3で同時にスタートしよう。
1,2,3、それ!
・・・そうそう・・・。 そのちょうし。
よし。 何度やっても、私の方は2.5mだ。 いやー、結構疲れますな! もう十分。 納得、納得。 こちらは2kgのほうだ。 これで終わりにしよう。
よし、次の実験開始だ。 と云うより、訓練開始ですかな。
今度の実験は、ちょっと難しい。 動いている重り秤を、脇から1kgの力でチョんと押してみる実験だ。 先ほどの止まっている実験の場合と比べて、動いている分、タイミングよく押さないと空振りしてしまう。 動体視力と運動神経が良くなければ失敗してしまう。
まず、1kgのほうからだ。
さあ、スタート
・・・。 それ、今だ!
上手、上手。 後は、何度か繰り返して慣れてください。
そろそろ十分上達したようですな。押す瞬間、目盛りが1kgになるように、上手く力を加減できるようになった。 押された重り時計は軌道がずれて、毎回2cmほど上に跳んでいる。
この重り時計は横方向速度:Vx=10m/秒で飛んで来る。 秤の幅は10cmあるから、接触している時間は0.01秒。 この0.01秒の間に、秤により1kgの強さで、上方向に加速されたことになる。 その結果、
上方向速度:Vy=α・t=9.8×0.01≒10[cm/秒]
押されてから、高さを測定する所までの距離は2mだから、0.2秒間移動する。 よって、跳ね上がる高さは
10[cm/秒]×0.2[秒]=2[cm]
ということになる。
続いて2kgの方だ。 やはり、押す瞬間は1kgの力で押すこと。 準備はよろしいですか? さあ、どうぞ!
2kgの方は1kgの力で押しても、倍重たいだけあって、跳ね上がる距離は丁度半分の、1cmでしかないですな。 よしよし、ちゃんと理論と一致する。 ニュートン力学は素晴らしいものだ。
ところで、もう十分上達したと思うが、いかがかな? この思考実験室の中では時計の精度などが完璧な理想状態となるばかりか、実験操作も数回の練習で超人的な神業?が使えるようになる。 要はイメージが描けるかだけの問題である。 それでは、いよいよ本番の実験に挑戦しよう。
さあ、ここまで前置きが長いと、うすうす感づいているかもしれないが、何と、今度の実験は、光速に近い速度で飛んでくる『重り時計』を、この秤で跳ね上げて見ようという実験だ。
先ほどの秒速10mとは比べ物にならない速度だが、根本的には何も変わっていない。 ちょっと危険・・・いや、かなり危険が伴うが、十分注意を払いさえすれば、大丈夫だろう!?
速度は0.87c、約26万km/秒とする。 ほとんど光速といっていいだろう。 秤を押しつけて加速できる時間は
10[cm]/26万k[m/秒]=3.8×10-10[秒]
これは、0.38ナノ秒という、正に、一瞬の時間でしかない。
首尾良く秤を押しつけられれば、この間に1kgの『重り時計』は
9.8[m/秒2]×3.8×10-10[秒]=3.7×10-9[m/秒]
の上方向の速度を得ることになる。
大丈夫。 貴方は十分な訓練を積んだ。 自信を持って実験に臨んでいただいて結構だ。
高さを計測する地点は、重り時計が丁度1000秒間走った、2.6億km先としよう。 そうすると跳ね上がる高さは
3.7×10-9[m/秒]×1000[秒]=3.7×10-6[m]
つまり、3.7μmとなるはずだ。 この計算はニュートン力学に基づくものであり、貴方とともに、先ほどまでの実験で、さんざんその正当性を確認してきたはずだ。
くれぐれも、飛んでくる『重り時計』に気をつけること。 光速に近い速度だから非常に危険だ。
いいですか? それでは実験開始!
さあ、来ました! それ!
おお! さすが、上手い!
接触する瞬間を捕らえて、正確に1kgの力で押し上げられている。 天才的だ!
よし、早速、高さを測ってみよう。 3.7μmのはずだ。 ・・・あれ、何度やっても予想の半分ほどの1.9μm程だ、おかしいですな。 ひょっとして2kgの方かな? いやいや、2kgの方は金色をしていた。 この黒っぽいのは確かに1kgの方だ。
どうした事だ! いったい何が起きているのだ?
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力と時間は密接に関係しています。このことをニュートン力学では
F=m・dy/dt
と表現しています。(距離をdxでなく、dyとしたのは後の説明の都合です)
移動系の時間は静止系から見てゆっくりと流れています。このことは移動系の物体を押す場合、静止系から見て分母のdtが小さいため、Fは大きく見えてしまうということを意味します。
もし、移動系の物体を静止系の物体と同じように加速して、同じ距離を移動させようとするなら、移動系の物体を押す力は大きくしなければならないということになります。このような現象を「mが大きくなった」と解釈しようということになる訳です。
何だか騙されているような気がするですって?
そうですね、この様な解釈で本当に矛盾が無いか、もう少しDr.メイと実験を続けてみてください。
よし、私はこの0.87cの速度で移動する『重り時計』の系に移って、接触する瞬間の様子を、詳細に観察しよう。 貴方はこちらの静止系で引き続き実験を続けていただこう。
私の方、つまり移動系である重り時計の系では、貴方のいる実験室の静止系が逆に右から左に通り過ぎて行く。 今丁度、右から来た秤の端が接触した瞬間だ。 貴方は今回も上手く押しつけ始めた。 力も1kgだ。
よしよし、順調に加速され始めた。 上に徐々に動き始めたぞ。
丁度予定の0.38n秒の半分まで来た。 このまま一気に加速だ。・・・おっと、押すのを止めないで。 実験を続けて!・・・あれ、もう秤の右端にまで来てしまったようだ。 これでは、これ以上加速できない。
だがまてよ、なんだか速度は結構出てるな。ちゃんと測定ポイントに到達するまで待ってみよう。
ありゃ、500秒で測定点に到達してしまったぞ、なんで1000秒じゃないのだ。 『半分の時間の加速』と『半分の時間で測定ポイントに到着』だって?
それに『測定ポイントまでの距離も半分だ!?』・・・、だから『半分の高さ』で文句ないだろうだって!!
うーむ。ちょっと混乱してきた。実験はひとまず止めにして、今起きたことを時空図を使って整理してみよう。
図9-1
まずは、貴方のいる静止系で時空図を使って考えてみよう。
図9−1は静止している『重り時計』を0.38n秒加速した場合(青)と、私がいた移動系の『重り時計』を加速した場合(緑)の比較である。
移動系にいて最初に私が驚いたのは、加速し終わるまでの時間が0.19n秒しかなかった事だ。しかしそれはこの図の通り、ローレンツ変換で確認した時間の遅れによるものである。
静止系の0.38n秒は移動系では0.19秒でしかなく納得できるものである。
次に、『半分の時間で測定ポイントに到着』、『測定ポイントまでの距離も半分』・・・の事を考えよう。これはもちろん私のいた移動系での出来事である。
そもそも移動系で貴方の静止系を眺めていたが、当然私の目には移動していたのは貴方の方であった。貴方の方で計った26万kmの測定ポイントは私の方から見たら縮んでしまって、半分の距離の13万kmでしかなかった。
これも単純にローレンツ変換で確認した移動方向への収縮(ローレンツ収縮)である。だから半分の距離を半分の時間で到着して何の不思議もない。これに対しても文句は無い。
『半分の高さ』に関しても、半分の時間で半分の高さまで移動したと考えれば、納得する。これは静止系から秤を押し付けて加速したら、移動系で測ってはじめて期待する速度になるということだ。
この三つまではローレンツ変換での予測通りだったと言う事で納得できるのだが『半分の時間の加速』だけは変だ。
何故かって、そちらの静止系(こちらから見たら貴方の方が移動系なんだが)での秤は『1Kgの表示』をしながら何と2Kg!の力で押していることになる。まるで秤のバネが2倍硬くなったようなもんだ。
おおっ!まてよ。バネのように金属が硬くなるのなら、ガラス玉も硬くなってダイヤモンドになるかもしれないぞ!そうすれば私は大金持ち!そうだ、こんな事やってる場合じゃない。早く実験して確かめよう。特許でもとろうかな・・・・。
・・・おっほん。今日の実験はこれで終わりとする。 さようならー。
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やれやれ、相変わらず気の早いやつです。Dr.メイは変な方向に考えが向かってしまったようですが、アインシュタイン博士は質量の増加という現象に着目し、あの有名なE=mc2を発見しました。
ところで、どうして加速後の速度が移動系で測ってはじめて同じになる、つまり静止系で静止している物体を加速して得られる速度と一致している必要があるのでしょうか?
その理由は最も根源的な原理である、エネルギーの保存則を守るためです。
さて、そろそろおっちょこちょいのDr.メイが戻って来る頃かな・・・。ほらほら、ちょっとしょげてる様ですが。
やあ、メイ。うまくいったかい?
[メイ] う、うん・・・。
慣性系間のエネルギーの交換に関する実験をしてみたらどうだい?
例えば熱エネルギーなんかが手ごろだと思うんだけど。
[メイ] そ、そうだね・・・。 じゃあ、ちょっとやってみようか。
よーし、それでは。10秒間、1kwの電熱器をつけた場合を考えてみよう。 この場合、電気エネルギーは全て熱エネルギーに換わるものとして考える。 容器の中にこの電熱器が置かれていた場合は、全ての熱エネルギー輻射熱として放出され、容器に吸収され、容器全体を暖めることとする。
この事は静止系でも、移動系でも変わらないはずだな。 静止系での容器を暖めるのに供給された熱量は10kwsに相当する。 移動系において同様の実験を行っても、当然同じ結果となる。
ところで、移動系でこの実験を行っているところを、静止系より観察してみるとどうなるかな?
静止系時間で10秒間観察していても、移動系では5秒しか経っていない。 その間、移動系の容器が吸収した熱量は5kwsに相当だ。 実際に容器の温度計も5秒間暖めただけの温度にしかなっていない。 ふむ、こんな現象はもう慣れっこだ。 特に驚くに値しない。
さて、これからが注目すべき実験だ。静止系の容器の中を、移動系の電熱器が暖める場合のことを考えて見よう。
細長い容器の中を、電熱器が光速に近い速度で飛びながら、容器を暖めるという実験だ。 形状が異なっても容器の容積は今までの実験で使用した容器と同じで熱容量も合わせてある。 また、熱は瞬時に容器内に行き渡る。
はたして、容器の温度は5秒(5kws)に相当するか、それとも10秒分(10kws)か? 直感で言って5秒の方だな。 この考察は、慣性系間のエネルギー交換則を見つけることになる。 よしよし。
もし5秒(5kws)以外、例えば10秒間に相当するエネルギー(10kws)を静止系が受け取ったとするぞ。 静止系ではそのエネルギーを利用して発電し、静止系で利用することが原理的に可能になるな。 受け取った10kwsの熱量は、1kwの電熱器を10秒間動作させることが出来ることになる。
もしこんな事が起きるのなら、この後、先程とは逆に静止系の電熱器で移動系の容器を暖めて、熱エネルギーを移動系に「お返し」出来る。 結果として移動系は移動系時間5秒の熱放射で、静止系時間10秒間分の熱エネルギーを静止系より逆輸入出来るわけだ。
少々ややっこしくなるが、さらに静止系10秒間分のエネルギーは、移動系にとっては20秒間分ということになる。 相対性原理により移動系も静止系も同格の慣性系であるから、このエネルギー交換則はどちら向きにも適用される訳だ。
結果としてだ、『移動系は5秒の熱エネルギー投資で、20秒間分のエネルギーが回収』ができることになる。 正に永久機関!? こんなうまい話はそうそう有るわけは無い。
結局、5秒相当(5kws)以外、多くても少なくてもエネルギーの保存則を破ってしまうことは容易に理解できる。
よしよし。エネルギーの交換則が見つかった。供給側の系固有の時間で測った仕事量(熱量)が交換されるエネルギーになるわけだ。 輻射熱による慣性系間のエネルギーの交換例である。 輻射熱は電磁波、つまり光の一種だが、この交換則は力学的エネルギーでも同様に適用されなけらばならない。 次は力学で考えてみよう。
力学的にエネルギーを移動系から静止系に移す方法を考える。 先ほどの実験と同様、光速に近い速度で移動している電気モーターで静止系の質点を押してみるというのが単刀直入な方法だ。
移動系で測った10秒分のエネルギー10kwsを、電熱器の代りに電気モーターに投入する。 その結果、移動系のモータより静止系の質点が加速させられる。
ちょっと復習・・・。
1[ws](=1[J])のエネルギーは1[N]の力で質点を1[m]移動させることができる仕事量である。 また約0.24[カロリー]に相当し1[cc]の水を0.24[度]上昇させることができる熱量でもある。
1[N]は1[kg]の質点を1[m/s2]加速させることができる力。
それでは実験を行おう。 移動系の電気モーターで10kwsのエネルギーを使い静止系側2kgの質点を押してみよう。 この10kwsは質点の運動エネルギーに変換されることから、
mv2/2=10[kws]
v=√(10,000×2/2)=100[m/s]
まあ、ざっとこんなところで、実験値とも一致するわけだ。
おお! そうだったのか! 押す側の系から見たら、この100m/sの速度は半分の50m/sにしか見えない。 つまり質量mが2倍に増加したように見える。
時空図を使って整理してみよう。静止系と移動系の時間軸関係は以下の通り。 移動系の時間は半分しか進まない。
さらに、この図に以下の図の様にY軸を追加し斜め上から鳥瞰してみよう。
赤いマルが電熱器を表わす。電熱器は移動系の時間軸に沿って移動する。 温められる側の容器はY軸の高さを持たせ、X軸側に細長いピンクの四角で表わした。
もちろん容器であるから、Z軸の厚みも必要だが表現出来ないから省略した。 これは静止系の時間軸に沿って固定されている。
この図より理解できることはエネルギーの交換は供給側の時間で行われる。 1kwの電熱器を10秒間つけると10kwsのエネルギーが輻射熱の形で放出される。 受給側は放出完了するまで、20秒間じっくりと待たなければならない。 静止系時間10秒で受け取った熱エネルギーは5kwsでしかない。
電動モーターで質点を押す場合はどうだろうか? モーターでアクチュエイターを作る。 先端に、X軸方向に細長い押し付け板を取り付け、高速で移動する質点を押して加速する。 押し付け板も含め可動部の質量は無視できるほどの軽量。 力は瞬時に端から端に伝わる理想的な実験装置だ。
アクチュエイターの押し付け板の右端が質点に触れた瞬間が0秒だ。移動系で10秒後に10kwsの電力を消費して電気エネルギーは質点の運動エネルギーに変換される。
しかし熱エネルギー交換実験とは時間関係が異なる。 移動系10秒時に押し付け板左端で動力が切れ、加速が止まる。 これは静止系の質点位置での時間にして5秒後でしかない。 移動系での10秒時の同時刻(緑の点線)を左に辿ってみて下さい。
つまり、10kwsのエネルギー受け取り完了までの時間は、静止系で5秒という事になる。
おお! そうか。 秤で重り時計を押した実験での疑問が解けた。 今回の実験と同じだ。 半分の時間で加速されていたのだ。 つまり加速度が2倍、 よって押す力は2倍となる。
これらを整理すると
@運動する物体の質量は増加する
A運動する物体から受ける力は増加する
が実験より、導き出されたことになる。
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この様に物理の基礎のような力学が変わってしまっています。 これでは根本から見直して再構築する必要が有りそうです。
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