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Copyright Maeda Yutaka

2.2 曲がった時空


 やれやれ、メイは相変わらずのおっちょこちょいですね。しかしそのおかげで、慣性系の概念が拡張出来そうです。 もう少し付き合ってあげて下さい。

 いててて・・・。 うっかりして脱出するのを忘れてしまっていた。 確かにおっしゃる通り、非常に危険な実験でした。

それでは、もう少し詳しくその”へんてこ”なる現象を教えて下さい。

えーと、『曲がっていた。じっと光りの軌跡を追っかけていたら、放物線を描いている様に見えた』と言う訳ですね。 ふむふむ。 そうですか、まるで光りが落っこちているかのように見えたと言うことですか。





 どういう訳なのかな。 こちらだと、真っ直ぐにしか見えなかったのに。 ン? そうか! 当たり前だ。 この光時計はそちらから見たら落っこちていることになる。 光は時計の右から左に真っ直ぐ移動していても、時計自身も落っこちているから、時計の一部となって一緒に落っこちてしまう。 当然軌跡は放物線になる。






何だ、随分単純な現象だったんだ。 時計は落っこちる♪ 光りも落っこちる♪ フンフン♪  ・・・ン!?

 光りは+方向だろうと、−方向だろうと絶対加速出来なかったはずだ。 なのに今回は加速されている。 重力は光を加速できるんだ。 だけどその加速された光をを見れる人は、重力場の中にいる人であって、落っこちている人ではない。




 そもそも、何にも無い空間で光が曲がること自体、納得しかねる。まるで密度にむらがある液体の中を通る光りのようだ。変分原理と言おうか、フェルマの原理として有名な『光りは最短時間の経路を選ぶ』からすると、重力場では曲線が最短経路となってしまう。

重力場では空間の密度が変わってしまうということなのか。 確かに特殊相対性理論では、速度差によって相手系の距離や時間の単位が変わってしまうわけだ。

言い換えると、相手系の時空間密度が変わるとも解釈出来る。 こういった状況が重力場という領域に、部分的に起きていると言う事なのだろうか。




 いずれにせよ、物理法則を慣性系の範囲に限った定義から、重力場でも成立つ全域的な定義に拡張するためには、その重力場における時空の尺度のむらを考慮した、ローレンツ変換に代わる変換方法を確立しなければならない。

そして『尺度にむらが有る』=『時空の座標が曲がっている』ということになるから、曲線時空版ローレンツ変換を考え出さなければならない。




 ウーン、参ったな。 そこで登場するのが、曲がった座標で定義された空間を扱うリーマン幾何学なのだが、数式だらけだったのですぐに本を閉じてしまった。 

だがここ至っては、黒猫迷信が宇宙全域で成立つ物理現象であることを証明するためににも、避けて通るわけにはいかないな。

よし、覚悟を決めて、曲がった空間の基礎を勉強するか。



 あれあれ。 メイは今の実験をほったらかして、図書室にかけこんで行ってしまいました。 それでは、メイが戻っていくるまで、私たちも曲がった時空の基礎を勉強しておきましょう。


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