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Copyright Maeda Yutaka
2.3 時空の基礎数学


 メイはリーマン幾何学を勉強するのだと言って、いなくなってしまいました。これから先に進むためには必要なものなのですが、サボっていたようです。ここで、私達もこれを勉強しましょう。 これから先は少々数式が多くなります。 しかし相対性理論を理解する上では必要になる数学です。


2.3.1 リーマン幾何学

 慣性系により定まる時空はローレンツ変換で、別の慣性系で指定される時空に変換されます。

             ローレンツ変換式

          
 

             ローレンツ逆変換式

         
 ; 

 
            但し


 そしてこの事は下の例で言うと、緑の慣性系の時空間が存在し、青の系から実際に測定をするとローレンツ変換で示される通り、長さが縮んで時間が遅れていると言う事です。



そしてその事は、そこに『異なる時空間が存在する』ということです。


もっと言うと『異なる系は別世界だ』ということです。 ちょっと挑発的な表現ですが、時間や長さの基準が異なってしまうわけですから、『別世界』とう表現も、あながち外れてはいないのではないでしょうか。


幸いな事に、その時空間は座標軸が斜交しているだけで、(ついでに間延びしているだけで)直線の座標系で表すことがけきました。


ところが、先ほどのメイの実験で分かるように、重力が影響する時空においては、少なくとも直線の座標で表現しきれないことだけは確かです。




エレベーターの中で真っ直ぐ歩いているメイも、真っ直ぐ進んでいる光も、地上の重力場に固定した系からみたら、その時空間は曲がっていた言う事になります。エレベータの中は局所的なミンコフスキー時空であったはずなのですが。


さらに逆も同じ事が言え、メイの自由落下系から見た重力系も曲がっている事になります。


この様なことはローレンツ変換で表現できません。そこで必要になってくる数学の道具立てとして、曲がった空間を表現するリーマン幾何学が必要となって来るのです。




2.3.2 擬ユークリッド空間からリーマン空間へ    


4次元距離は異なる慣性系間で(さらに線素であれば、曲線座標で表される一般座標系に対しても)不変でした。 これを利用すると、慣性系と同等である自由落下系を物差しとして、重力場の座標軸を確定できそうです。


 早速、自由落下系を使って見ましょう。 まず私達は重力場側の時空(青いct,Xの座標)に静止しているものとします。 その重力場は非常に大く、これから議論する範囲では一様に分布しているものとします。


この重力場でX方向に自由落下する質点を考えてみましょう。 図ではOから、Pへの世界線で表されます。


 質点から伸びている赤いベクトルは4元速度を表します。もっとも今回の説明では時間軸と空間軸Xの”2元”なのでしょうが、4元とは『時間軸と合わせて』と理解願います。


 O点から自由落下を始めました。もちろん最初のニュートン力学での速度はゼロです。しかし相対性理論のでの4元速度Vの場合は

             Vμ=dxμ/dτ

と定義されます。


τは固有時間と呼ばれ、緑の自由落下系の時間t’のことです。しかし、t’は一律ではなく、質点の運動速度によって変化します。つまり質点が高速で運動すると、ゆっくり時を刻むようになる訳です。


この4元速度の定義では、じっとしていても、時空間の中で時間方向に動いていることになります。じっとしている質点の固有時間はこちらの系と同じ時間を刻みます。
つまりdτ=dtであるから

              V0=dx0/dτ
                =Cdt/dt
                =C

となり、この場合の4元速度はCになります。






時間が経つに従い、重力で加速されX方向の速度が現れて来ます。

OからPにいたる経路は1本しか存在しません。試しにX方向に初速度を持たせてみましょう。




このように到達点が右にずれてしまいます。一様な重力場における自由落下の世界線は曲線ではありますが、唯一1本しかありません。適当に引いた曲線に沿って質点を移動させることは不可能です。実はこの線は測地線と呼ばれ、曲がった時空における直線の役割を持ちます。


 どうしてこれが直線の代りになるのかですって? そうですね、またメイに実験をお願いして見ましょう。

 なんだ、なんだ。 ふぁーあっ。 実験がどうしたって・・・? いま、リーマン幾何学なるものの勉強中でとってもいそがしいの。 付き合っている時間なんか無い。 ふん。


 ン? よだれが、たれてるって? ・・・ありゃ、うっかり寝込んじゃってたのがバレたか。 


うーん。 しょうがないな。 気分転換に実験に付き合ってやるか。


何々。この曲がっている世界腺のどこが真っ直ぐなのかだって? うーむ。 こりゃどう見ても真っ直ぐには見えないな。


そうだ、時空間の座標を直接観察することが出来る、画期的な実験装置が有った。 そう、『メイの時空間座標単位ベクトル表示装置』だ。 動作原理を忘れているといけないので、先に進む前に再度復習しておくように。

    
 さあ。 しばらく使わないでいたから、まずは時空間表示装置の動作確認。


重力の無い宇宙空間に、この装置と質点とを一緒に静止させておく。同じく静止しているアレイカメラで測定してみよう。


   


よしよし、ちゃんと動いているようだ。 時間軸(↑)、空間軸(→)の単位ベクトルが直行した状態で映し出されている。


これを、ある程度、連続した時間観測すると、広域時空図にプロットする事が出来る。


下の図の様にアレイカメラは空間軸1に沿ってずらっと並べてある。これは青系の広域空間座標そのものとも言える。


       

質点及び時空表示装置側を別の慣性系として緑で表すと、上の図の様な関係となる。


次は、移動させてみよう。 つまり、青と緑は静止系と移動系という特殊相対性理論的な関係となる。


 アレイカメラの静止系(青)に対して、緑の系を高速に移動させてみる。

それー。

     


さて、どうかな?
おお! ちゃんと移動系の斜交軸が映っている。




これもやはり、広域に渡るカメラ画像を時空図に重ねて整理してみよう。

          


慣性系同士の座標軸を広域に延長しても、移動系の斜交軸の形状には当然変化は無い。 どこにあるアレイカメラで撮影しても結果は同じだ。


以上で時空表示装置の点検と、ローレンツ変換における頭の整理完了。


それでは、この『メイの時空間座標単位ベクトル表示装置』・・・。かっこいい名前だが少々、長い。よし、時空表示装置と略そう。この時空表示装置をエレベーターに積み込んで観測してみる。



0秒、質点動かず!
1秒、質点動かず!
2秒、質点動かず!
3秒、質点動かず!?
4秒、まだ、動かず!



5秒、まだまだ動かず!
6秒、ぜんぜん動かず!
7秒、
8秒、9秒、
10秒。結局動かず!



結局、質点はぴくりとも動かなかった。そちらの重力系からの観測ではどうなっているかな?



          


エレベータの中の時空は、速度が付くに従い座標軸が閉じて行っている。それと合わせて時間軸のベクトルは徐々に間延びしている。


ん! そうだ、思い出した。このベクトルはエレベータ時空での時間軸を構成する単位ベクトルだった。

                 

これをこの様につなげていくと、自由落下するエレベータの時間軸がどのように変化しているのかをプロットできるはず。


よし、やってみよう。


まず、エレベータの中の座標系で、質点を表すと、下の緑の座標の通りとなる。

               


次に、青の重力場系座標上に、これに対応するエレベーターの時間軸をプロットしてみる。
              


ふむふむ。 速度が付くにつけ座標軸の時間間隔が間延びしていくのが分かる。



2.3.3 測地線

さらに詳しく観測するために、時計とともに思い切ってこの質点に乗っかって落っこちて見よう。 エレベータの外に出て落っこちるのは、少々怖い気もするのだが。



 私が取り合えず測れるのは、時間軸:0’に沿った四元距離C凾'(=C刄ム)でしかない。 質点にくくりつけた時計だからそちらから見たら、固有時間と言う事になる。




これを、そちらから眺めていると、上の図の様に質点の世界線にふられたメモリのように見える。


このメモリの間隔凾'(刄ム)を時空表示装置で測る単位時間の0.24[n秒]と揃えよう。
    

これにより、時空表示装置の単位ベクトルをつなげて固有時間を表現できる

        


しかしこの自由落下系での1mの節々が青の重力系座標xのどの位置に相当するのかを、まだ我々は知らない。


しかし、4次元距離の二乗凾2は慣性系間で不変量であった。 1mと言う距離は空間の曲がりに対し十分微小な距離だとする。そうすると双方を局所ローレンツ系と見なせ、由落下系の距離の二乗が1m2というであれば、重力場系でも1m2となるはずだ。


つまり、この微小辺の重力場系座標との関係は以下の様に表せられる。

         凾2=gμν(x)凅μν=1[m2]

さらに、後ほどの微積分による解析に備え、凾2を線素ds2としよう。その場合も、以下の様に微小距離と同様の関係で表される。


ただし、重力場における計量g(x)は今だ未知である。


そこで次のように仮定しよう。

   『重力場における質点の軌跡は最大距離である』

以下にその仮定に至る推論を述べる。




左の図の様に自由落下系でのO-P間のは最大距離であった。勿論この軌跡は直線であり、かつ唯一1本である。








重力場における質点の軌跡も唯一1本しかなかった。ゆえに『重力場におけるO-P間のは最大距離を取る』と仮定する事は自然である。






以下この仮定を基に重力場における質点の軌跡を求めてみる。

下の図はx1,x2の空間二次元のうちx2方向に慣性運動をしながらx1の方向に重力が働き落下している様子を示している。


この軌跡の上の任意の点をa、bとする。


軌跡の位置を指定するパラメータとして距離sを用いa、b区間を積分する。

   

この値がa,b二事象間の距離だ。  この時、xはどんな形状をしているのだろうか? xの形状はx自身の関数f(x)としてと表される。 



a-b間の経路は一本しかなかった。だから両脇にチョッと変形させた経路であってはいけない。

さらに距離lはl(f(x))というように関数xを変数とした関数と考えられる。


私が乗っかっている質点でのa、b間距離は、当然直線であり、最大値(ミンコフスキー時空での4次元距離は空間軸の符号がマイナスであるため、最小値ではなく最大値を取る)である。

従って、共通で等値である線素dsを積み重ねて測った重力場側での長さlも、最大値でなければならない。

つまり、未知のf(x)は、微小変形δxで距離: の変化が0となる極値の条件を満たさなければならない。 以下この極値条件を足がかりに質点の経路を具体的に求めていこう。 なお変形は、a点とb点を固定して、途中の経路を滑らかに変形するものとする。

  以下の数式変形の大筋は 参照文献・図書 (4) を参考に、説明と式の詳細変形を補間しました。

 任意の経路を選び、その経路形状に微小変形δxを与えた場合、距離の微小変化がδsであったとする。
その場合、経路上における各線素

  

   
となる。

両辺それぞれを展開しよう。ただし微小変形での極値条件を計算するのだから、δx、δsの2次以降の項は無視できる。

  

アンダーラインを引いた項は変形前の等式だ。残りの項が変形で生じた項であるから、この部分を書き出すと、
  

さらに、右辺を線素の微小変化のみの項にする。

  

これのa‐b間全経路にわたる積部をとると、微小変形分の距離となる。

  

ここで上記の極値条件dl/dx=0より、であるから

  

代2項をに分けて部分積分
*2する。

 

*1 関数の積の微分
 (f・g)'=f'・g+f・g'

*2 部分積分法 

 積の微分を変形する。
 f'・g=(f・g)'-f・g'
 積分する。
 ∫(f'・g)dx=f・g-∫(f・g')dx

第1項のは滑らかな変形という条件(つまり両端は変形しない)から来るδx(a)=δx(b)=0により0となり消去される。さらにdsによる積の微分
*1を展開して

  

αとνのインデックスを合わせてカッコの外にくくりだす。

  

微小変形δxは任意であるから、等式が成立するためには、被積分項が0にならなければならない。 よって、

  

メトリックテンソルの成分を逆行列として持つを両辺に掛け変形する。

  

  

dx/dsの項を括り出すためにインデックスを整理する。

  

  

  

となり、以下の運動方程式を得る。これが測地線方程式と呼ばれるものであり、曲がった空間での直線の代わりになるものだ。

   
ただし 


             
参照文献・図書 (4)の参考範囲終了


クリストッフェルの三指標記号と呼ばれ、ベクトルの平行移動時の挙動を記述する『接続』なるものの一種である。尚、クリストッフェル記号には第1種と第2種があり、ここに求めたものは第1種クリストッフェル記号と呼ばれる方だ。 


 このように測地線は重力場の系では最短経路である。そして重力が消えた自由落下系や、重力の影響の無い慣性系では、最短経路である上にさらに特別な”直線”になるわけだ。




2.3.4 ベクトルの平行移動

 ここまで来たら、ついでに接続とベクトルの平行移動に関する実験を。

4元速度は測地線の接線ベクトルである。自由落下系の立場では直線に沿って”接線ベクトル”を接線方向に継ぎ足していた。まさにベクトルの平行移動だ。
        

 これを重力場系の立場で考える。質点の落下軌跡である曲線状の測地線があり、その曲線の接線に沿って4元速度ベクトルが平行移動するのを眺めていたと言うことになる。



自由落下系        重力場系         


 ところで、物理を離れリーマン幾何学におけるベクトルを考える。この場合、平行移動の定義は純粋に数学の問題となり定義次第で色々な性質を持つ数学上の空間が創造できる。


今、OとPの間が接近して微小距離dxであるとしよう。Voが平行移動された結果ベクトルVpとなったすると

  

のような形で表現される。つまり平行移動すると距離dxに比例して移動前のベクトルの成分に対し、移動後のベクトル成分に一定の変化が生じる。


この中で3次元マトリックスのXは接続係数と呼ばれ、これををどう定義するかである。


 ところで、我々はリーマン幾何学の、物理空間に対する応用について議論しているのだから、ベクトルVは何らかの物理量でなけらばならない。


それならば先ほど測地線を構成した4元速度ベクトルであっても良いはずだ。


 という事で、Vは4元速度だったとする。そうすると左辺(Vpβ-Voβ)は微小距離を隔てた速度差と読め、dVと書き表せる。さらにdτで両辺を割ると、

  

となり、さらに

  

と書ける。


一方、測地線の方程式は

  

であった。
ds=c・dτであるから4元速度の定義V=dx/dτにより

  
     ↓
  
     ↓
  

と接続係数と符号が異なるだけで同様の形に変形できる。接続係数としてクリストッフェル記号を使う事が理にかなっていそうだ。


他の物理量、例えば、棒の(落下方向に向けた)長さベクトルなどはどうかな? 四元速度ベクトルだけが特別な物理量であるわけが無い。速度ベクトルと同様の平行移動の規則が適用されるべきだと思うのだが。

 よし、もう一度定規を持って落下実験だ。それ!


       
さて、どういう結果になったかな?


まず、落下直後の時空間画像だ。

               

定規と空間軸ベクトルは一致している。


次に、しばらく落下して速度が付いてきた所の画像を見てみよう。

             

ありゃ、定規と空間軸ベクトルはずれてしまっている。せっかく定規をベクトルに見えるように、先っちょに矢尻をくっつけておいたのに。


これは4元ベクトルでは無いと言たいのかな?


・・・確かに、この定規はローレンツ収縮している。 収縮する範囲は空間成分の3次元の中に限られており、その中でも移動方向のみだ。 そもそも4元速度ベクトルとは、生い立ちが違う様だ。



自由落下系        重力場系              


ベクトルの平行移動ではは4元速度ベクトルと同じ変換を受けると考えると上の図の様にならなければならない。何故なら、接続係数にクリストッフェル記号を使ったからだ。


つまり、4元位相ベクトルは

           

の様に、空間軸単位ベクトルと同様に平行移動すると言う事になる。


この様な4元ベクトルの考え方は特殊相対性理論でのミンコフスキー時空における物理法則を構築する上でごく自然な規定である。 4元座標差の変換がローレンツ変換であり、その他の物理量と法則が同様に変換可能ということが特殊相対性原理であったからだ。


これから構築しようとしている重力場の理論でも測地線に沿って4元ベクトルが平行移動していった結果、その状態で物理法則が矛盾無く記述出来るかどうかが重要になる。


 このように物理量を4元ベクトルで捉え、測地線に沿ってOからPに自由落下させる。これを平行移動の接続と考え、その結果、

  
  

となり『平衡移動でベクトルの大きさは変化しない』という性質をもった物理空間を構築できることになる。そう、今勉強中だったリーマン幾何学を基に。


なに、寝てただろって?・・・。 ふん、リーマン幾何学では今言ったようにベクトルの平行移動でどうなるかにより、いろいろな空間を定義できる。 私が身を持って実験して確かめたんだ。その私の実感からして、この定義が一番もっともらしい。測地線の中では、時間ベクトルも定規の長さベクトルも、いやになるぐらい全然変化しなかったからだ。


 待てよ、このことは『メイはマヌケでは無いの原理』と似ていないか?
そうだ、あの時と同じだ。自由落下していた私は、つまり測地線の中だ。そして中にいた私が、宇宙船の曲がりに気が付かないのがマヌケなわけではなく、もちろん私が正しい。外から見ていた者たちが間違っているのだ。だからベクトルの長さも私に従え!じゃなかった、測地線側に従え!という事だ。


うむ。平行移動の定義は、これに決めた! ようし、これで『メイはマヌケでは無いの原理』と『メイはドジでは無いの原理』、この二つの偉大なる指導原理に基づく全宇宙普遍の法則を発見する。そう、この私の壮大なる野望の実現がまた一歩近づいて来たような気がするぞ!はっはっは。

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