2.3.7 リーマン曲率
空間に分布するベクトル等の物理量を、偏微分することを考えます。 空間が平らな場合、
となり、結果は微分する順番に関係有りません。
ところが、空間が曲がっている場合の共変微分では、
が”0”になるとは限らなくなってしまいます。 つまり微分する順番で、結果が変わると言うことです。 この事を数学では、共変微分は『可換ではない』と言います。
その順番により変わる量を以下の様にリーマン曲率:Rで表します。
この曲率は正確に言うと、Riemann‐Christoffelの曲率テンソルと言います。そしてこの曲率は共変微分の生い立ちで分るように、空間を構成する計量(メトリックテンソル)から導き出されています。
計量:
↓
リーマン接続:
↓
共変微分:
↓
曲率テンソル:
かなり、色々な情報が詰まってそうなテンソルです。 メイが行き詰まってしまった『空間内の道具立てのみで、その空間の曲がり具合を定義する』といったことが、出来るかもしれません。
その辺の事情を確認するため、リーマン曲率の導出過程をもう少し整理してみましょう。
インデックスやダミーインデックスの相互関係に注意しながら、二段階に分けて微分します。
まず正順です。
同様に、逆順の微分をします。
正順から逆順を引きます。
さらに展開します。
この中で、
,
の項はμ、νに対称な項なので消えてしまいます。 よって、
となります。
このように接続だけ(だらけ?)の項が残りました。
元の定義のより、比較して、
つまり、リーマン曲率テンソルは接続を使って、新たに定義することが出来ました。
ところで、接続とは、ベクトルの平行移動時の挙動を定義するマトリックスです。
この中で、
-
の項を、じっくりと眺めていると、『ベクトルを平行移動して平行移動。 ひっくり返って、平行移動して平衡移動』とささやいているように聞こえませんか?
何?曲率が『♯♪ベクトルを平行移動して平行移動 ♭♪ ひっくり返って、平行移動して平衡移動♪♪』と囁いているって?
-
うーん。 そのような気がするような、しないような・・・。この項は一部でしかないから何とも言えないんだが。
μとνは空間移動dxを受け持つインデックスだった。 こいつらが独立に組み合わさっているから、いろいろな経路で、ぐるっと回って戻ってくるとも取れそうだ。 点線の矢印はマイナスの項だから。
『グルッと回って結果は”0”じゃないぞ!』とでも言いたのかな?
- |
移動経路? |
0 0 0 0 |
|
0 1 1 0 |
|
1 0 0 1 |
|
1 1 1 1 |
|
別の見方で『 経由と、経由ではベクトル変化が異なるぞ!』ともとれるな。
グルッと回る? ワン! じゃなかた。 えーっと、さっきの実験ではグルッと回って、円周率を測ったんだ。 今度はベクトルをグルッと平行移動させて、変化を測れと言っているのかな?
そうか、やってみる価値は有りそうだ。 早速、球面空間に行って、実験開始!
まず、ジープにベクトルを搭載する。 どうやってベクトルをくっ付けるのかって?
簡単簡単。大きな板を矢印の形に加工し、ついでに目立つようオレンジ色で塗っただけ。後は、手動でぐるぐると方向角度を変えられるように、回転軸を取り付けて出来上がり。
これで、実験準備完了。後はグルッと回ってみるだけだ。円周上を回ってみたいのだが、絶えず最初の向きを保つための、ジャイロ付きの高級ベクトルが必要になる。
そこで、今回はグルッと回る最低限のルートとして、三角コースにしよう。
まず、開始点@は緯度90°の赤道で経度0°の点。 ここからベクトルをジープの進行方向にセットし移動開始。
赤道上を東に90°移動しAに到着。 球面の1/4を横断したことになる。 ここで、ジープの向きを左に90°、つまり北極点に向ける。 向きを変えるのはジープだけで、ベクトル板は向きが変わらない様に注意する。
このまま移動し、北極点Bに到着。やはり90°左にジープの向きだけ変える。 この状態で、ベクトルは真後ろを向いている。
後は、真っ直ぐ南下し赤道上の開始点@を目指す。 もうすぐ到着だ。 振り返って思い起こすと、移動は真っ直ぐで、ハンドルは全く切っていない。 このコースは測地線ということだ。
さあ、到着! 今のベクトル板の状態は、Cだ。 早速、@とCの変化量を計測。 おお!何と、90°ずれてしまっている。
この - 式の囁きは、取りあえず正しかった様だ。 リーマン曲率はベクトルの周回移動による変化量を現しているらしい。 そのことが実験で判明した。
曲面内の道具立てのみで曲がり具合を知る方法が、円周率以外にも有りそうだという事だ。
そうと分ったらこの曲率の式を、徹底的に分析してみよう。
二次元曲面を考る。この曲面上に任意の点Pを取り、その座標をxとする。そして、その点PにあるベクトルをVとする。
微小距離のδx0,δx1離れたQまで、コースCa,コースCbのそれぞれで、Vを平行移動させてみよう。
コースCa
点aまでVを平行移動させる。
さらに、P点まで平行移動させるため、以下に式にV(a)//を代入。
は点Pの量では無いので、テーラー展開により一次の近似で求める。
カッコを展開。 Vを括り出す準備のためVのダミーインデックスをρに統一。
最後の項は微小量δx0の二次を含む項であるから無視する。
共通項を括り出して整理する。
最後の{}内はコース対称の項だ。
コースCb
点bまでVを平行移動させる。
以下の式に代入。
コースCaと同様に整理し、以下の式を得る。
コースaの結果からコースbの結果を引く。
やはり、曲率Rはベクトルの周回平行移動に関するテンソルだった。
δx0δx1の項はコースa、コースbで囲まれた面積に対応するから、周回コースの囲む面積が大きいほど、ベクトルの変化が大きくなることを意味する。
ついでに、コースをひっくり返すと、
となっる。 先ほどのベクトル移動の計算順番が逆になるから、結果はマイナスとなる。
この曲率テンソルは色々と対称性が有りそうだな。もう一度、良く式を眺めてみよう。
おっ! ひらめいたぞ! このクリストッフェル記号の組み合わせから、
という、面白い関係になっているみたいだ。
もっと色々有りそうだけれど、さすがにジープで走り通しだったので少々疲れた。 とりあえずここまでとして、後はまたの機会に。
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ところで、メイの実験や分析は、二次元曲面上の物理空間でのことでした。 しかし、これらの道具立ては、高次元中の二次元曲面でもほとんど修正せずに使えます。
参照文献・図書 (2)第Y章では上記球面座標xでのベクトルをδxで移動させた場合のRとの関係式とは別に、最初から直接、高次元内曲面パラメータu、vを使ってベクトルの移動範囲の面積とRの関係を導出しています。以下の数式変形も含め本書を参考にしています。 正確に理解するためには本書の参照をお奨めします。
例えば、X座標で表される4次元リーマン時空内の任意の曲面Sを考えましょう。Sは曲線群u,vを使って構成できます。つまり、u,vパラメータを指定すると、Sの任意の点がxμ(u,v)と表せます。
この時空内全域の計量gが決まっていれば、全域で曲率Rが決まっています。
いちいち曲面Sの計量から初めてSの曲率Rを求める必要は無く、メイの実験と同様、この時空内の任意の曲面S上でベクトルの周回移動実験を行うことが可能です。
つまり、時空をあらゆる角度から断層撮影を行うことが可能だと言うことです。それに耐えられるだけの歪情報をこのリーマン曲率Rは保有しているのです。
そのための修正はごく簡単で、最初の式
で、δx0と直接指定した変数をに置き換えます。
任意の曲面に対応するため、Γの移動座標軸指定用のインデックスもαと割り振ります。
同様にx1もに置き換えます。
以降、メイがやったのと全く同じ計算手順で一般式の
を得ることが出来ます。
参照文献・図書 (2)の参考範囲終了 |